東京オリンピックから50年。映画といえば、やはり市川崑の、この映画

 東京オリンピックから50年。東京オリンピックの映画といえば、この映画だなあ。独創的・画期的な映画史に残るドキュメンタリー。

東京オリンピック [DVD]

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 この映画が登場するまで、オリンピック映画といえば、国威発揚のためのプロパガンダ映画で、ベルリン・オリンピックを記録した「民族の祭典」が、その頂点に存在した。民族感情を盛り上げるテクニックの教科書ともいえた。
民族の祭典【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

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 しかし、市川崑監督の作品は、公式記録映画とは思えないような、私的な視点に基づく映像詩だった。スポーツ・ドキュメンタリーの革命だった。こんなドキュメンタリー映画の方法論があるのだと。昔ながらの映画の記録性を捨てながらも、映画は東京オリンピックの熱気とアスリートの美しさは伝わってくる。政治家からは「何だかわからない」と批判を浴びた。純然たる記録じゃないから、試合結果がわからないといえば、わからないんだけど、当時は既にテレビの時代で、結果はテレビで見て、知っている。オリンピック映画で求められるのは記録ではなく、感動の再現だった。映画の表現方法としては正解だったわけど、1964年に、そこに気づいていたんだなあ、市川崑は。映画人にありがちなタイプだと、テレビを嫌ったり、バカにしたりするんだけど、そうではなくてテレビの映像を浴びる時代になったことを前提に、どう映画をつくるか、考えていたんだなあ。
 この「東京オリンピック」があったらこそ、1968年のグルノーブル冬季オリンピッククロード・ルルーシュが記録した、こちらとか...
白い恋人たち Blu-ray

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 アーサー・ペンミロシュ・フォアマン、ジョン・シュレジンジャーをはじめ、市川崑クロード・ルルーシュなど世界の映像作家が参加した1972年のミュンヘン・オリンピックの記録映画のこちらとかができたんだよなあ。 散文的な記録から映像詩へ。タイトルも「白い恋人たち」とか、「時よとまれ、君は美しい」だもんなあ。ともあれ、映像作家が創造欲を刺激されるような新しいオリンピック映画の出発点は市川崑の「東京オリンピック」だった。
 さて、2020年の東京オリンピックの記録映画はどうなるのだろう。安倍・自民党政権の好みとしては「民族の祭典」なのかなあ。それもAKB風にというか、身近な感じにシュガー・コーティングしながら、日本民族の優越性を誇示するような巧みなプロパガンダかなあ。日本人を元気にしたいとか言って...。
 市川崑みたいに公式映画でありながら、勝者も敗者も日本人も外国人も自らの目で見たオリンピックの感動を斬新な手法で表現しようとする気骨のある映像作家はいま、どのぐらいいるかな。公式、非公式、商業・非商業を問わず、東京オリンピックをどのように記録、表現していくのか、映像作家も問われるなあ。
 市川崑、くわえタバコで映画を撮る、洒脱で都会的な雰囲気の人だったけど、強靭な精神をもった映像のパイオニアだったなあ。
KON―市川崑

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市川崑大全

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