堤大介、ジェラルド・ゲルレ他『スケッチトラベル』:世界71人のクリエーターを旅したスケッチブック

スケッチトラベル

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 WOWOWの「ノンフィクションW」で堤大介とスケッチトラベルの物語*1を見て、この本に関心を持った。堤大介ピクサーのアート・ディレクターを務め、昨年つくった「ダム・キーパー」はアカデミー短編アニメ賞にノミネートされ、注目を集めている人(昨日は「情熱大陸」で取り上げられていた*2 )。その堤氏がフランス人のジェエラルド・ゲルレ氏らとともに、スケッチブックを世界中のクリエーターに手渡しし、絵を描いてもらうことを思いつく。スケッチブックは最後にオークションにかけられ、収益金は途上国における子供の識字率向上、図書館づくりに寄付されている。その企画力もすごいが、内容もなかなか。
We Are The World DVD+CD (30周年記念ステッカー付) 欧米、日本など各国のクリエーターが描いた絵はそれぞれの個性が発揮されている。マイケル・ジャクソンたちの「USA for Africa」が「We Are The World」のどんなに短いフレーズを歌っても、それぞれのアーティストの個性が出ていたように、1枚のイラストにクリエーターたちの個性が現れる。テレビのドキュメンタリーを見た時も思ったが、最初のページをレベッカ・ドートゥルメールに依頼したことが全体の水準を決めたような気がする。それもこれも堤大輔とジェラルド・ゲルレという2人の発案者の企画力だなあ。
風立ちぬ [DVD] 木を植えた男/フレデリック・バック作品集 [DVD] このスケッチブックの旅の最後に控えているのは「木を植えた男」のフレデリック・バックと宮粼駿という東西の巨匠。ドキュメンタリーを見ると、堤大介夫人は宮粼駿の姪で、宮粼駿は堤の結婚式にも出席している。親戚ということを利用して宮粼駿をまず最初に持ってくることもできたのかもしれないが、そうした安易な手段をとらなかったのはすごいし、成功。宮崎がトップバッターでは、この画集に集まるクリエーターたちや描く絵も随分変わってしまったかもしれない。それに好むと好まざるとにかかわらず、どこか権威主義、セレブ的なボランティアの匂いがすることになっただろう。フランスから始まり、71人のクリエーターの終着点が宮粼駿であったところに意味があるなあ。
 ともあれ、どのページを開いても楽しい画集。松本大洋松本大洋だし、森本晃司がスケッチブックの次のページに裏移りさせてしまった赤を夫人の福島敦子が絶妙にカバーしたイラストも楽しい。このスケッチブック、後の人ほどプレッシャーが強かっただろうなあ。で、意外と好きなのは、そんなプレッシャーを軽くいなしたようなエンリコ・カサローサのヨガのハウツー風マンガだったりする。
 目次のイラストを描いているのは、「ダム・キーパー」で堤とコンビを組んでいるロバート・コンドウ。堤とコンドウのコンビは、社交的な堤と、ちょっとシャイなコンドウというイメージ。で、ぽっちゃりとしたコンドウ氏を見ていると、この人、「カールじいさんの空飛ぶ家」に出てくるラッセル少年のモデルじゃないかと思えてしまう。ラッセルほど活動的ではなさそうだけど、イメージが...。 最後に、この「スケッチトラベル」。堤・コンドウの「ダム・キーパー」コンビがプロモーション・アニメをつくっていて、これがまたいい。