岡村青『十九歳のテロルの季節−−ライシャワー米駐日大使刺傷事件』:犯人の少年は精神病院で自殺していた
- 作者: 岡村青
- 出版社/メーカー: 現代書館
- 発売日: 1989/08
- メディア: 単行本
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浅沼事件を起こした山口二矢は少年鑑別所で自決したことは知っていたが、この本を読んで、ライシャワー事件の犯人が都立松沢病院の病棟で1971年に自殺していたことを初めて知った。精神科で治療を受けていたが、回復、退院には至らなかったのだ。死亡が事件7年後であったとことも、ライシャワー事件の犯人の印象を薄くしているのだな。
目次で内容を見ると...
第1章 「ライシャワー米駐日大使刺傷さる」
第2章 決行以前
第3章 民主主義の体現者として
第4章 テロルの季節
第5章 聖戦、いまだ完遂せず
沢木耕太郎が浅沼事件を描いた『テロルの決算』と同じ路線を狙ったような感じもするが、ライシャワー事件の犯人には山口二矢ほどの陰影が見えない。ちなみに、著者の執筆の目的は「あとがき」で吐露されている。
ともあれ、筆者がなぜこうしたものに取り組む気になったか。それはプロローグのところでも既に述べたことだが、少年には政治的、思想的背景はまったくない、精神異常者、としたマスコミや司法当局に対し、いやあるのだ、大いなる確信犯なのだ、と塩谷少年にかわって筆者が訴えたい、という思いがまず初めにあったからだ。
塩谷少年は死の直前まで「東条崇拝」にとり憑かれていた。むしろ彼の精神は、自分を東条に同化せしめるまでに高揚していたぐらいだ。それ故、東条が貫徹を試みようとしてついに成し得なかった「聖戦」を、彼にかわって塩谷がそれを継続しようとして、いかほども不思議はなかったのである。
ライシャワー大使刺傷事件も自裁も、してみればその「聖戦」の延長であったにちがいない、と執筆が完了したいま、筆者はあらためて気付くのだ。
犯罪も、精神的な病も時代の落とし子であり、時代と切り離して語ることができないということはわかるのだが、それを「政治的」「思想的」な背景とみなすもなのかどうか。そうした点の評価については疑問も残るのだが、事件と人を詳しく追っていて、事件ルポとしては興味深く読めた。
- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/11/07
- メディア: 文庫
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