英エコノミスト編集部『通貨の未来 円・ドル・元』を読んで

通貨の未来 円・ドル・元

通貨の未来 円・ドル・元

 昨年、読んだ本だが、トランプ大統領の就任を控えて、何だか、この本が想定しているリスクが顕在化してくるかのような恐怖が...。内容としては、英エコノミスト誌の通貨問題に関する記事をまとめた本。ドルなど国家の通貨だけでなく、ビットコインブロックチェーンなどの仮想通貨までカバーする。特に、ブロックチェーンになぜ金融界が注目するのかも、これを読むと、理解できる。タイトルとしては「円・ドル・元」だが、現実には「円」はすでに注目度が低く、「2020年までの日本と円の未来」は、この本を出版した文藝春秋が特注したもの。内容に即して言えば、「通貨の未来 ドル・元・ブロックチェーン」といったほうがいいのかもしれない。主役はドルで、元はドルに代わる基軸通貨となる可能性があるのかどうか、という話。
 内容を目次で見ると...

第1部 ドルの未来 責任を放棄した王者
 第1章 ドル支配の限界とコスト
 第2章 基軸通貨が交代するとき
 第3章 ポピュリストの台頭
 第4章 「最後の貸し手」がいないシステム
 第5章 ニューヨークを人民元取引のハブにする
第2部 元の未来 諸刃の剣
 第6章 人民元基軸通貨になれるか?
 第7章 市場全面開放というトレードオフ
 第8章 2016年の元安の意味を考える
 第9章 習近平のジレンマ
第3部 仮想通貨の未来 究極の基軸通貨か?
 第10章 絶対に改竄できないサイバー上の公開帳簿
 第11章 仮想通貨の帳簿が世界を変える
第4部 円の未来 黄昏の安定通貨
 第12章 マイナス金利という実験
 第13章 アベノミクスを採点する

 こんな具合。第3部の「帳簿」がブロックチェーン
 で、トランプ大統領の登場が不安なのは、「最後の貸し手」がいないシステムで、ポピュリストが台頭し、王者が責任を放棄するという悪魔のシナリオが現実に成る乗っではないか、という恐怖。通貨ではドルは一人勝ちで、ロシアのマフィアも、中国の汚職官僚も、アフリカの独裁者も、南米の麻薬王もドルで資産を持ちたがるというのが実情。なんだかんだ言われながらも、ドルが最も信用されている通貨。で、ドルは米国内にとどまらず、オフショアでも爆発的に拡大している。それなのにグローバルなドル市場という観点から見ると、「最後の貸し手」がいない。これまでは、FRBが好むと好まざるとにかかわらず、世界の「最後の貸し手」の役割を果たしてきたが、これには米国内から批判が出ている。
 かつてのアジア通貨危機、あるいはリーマン・ショック級の国際金融危機が起きたとき、アメリカ・ファーストのトランプ政権の下で、FRBはどのような行動をとるのか。イエレン議長は世界の金融市場を守ることが米国を守ることだと判断しても、政権の理解と支援を得られるのか。結構、怖い話。
 トランプ政権後の世界はどんな世界になるのだろう。「通貨の未来」は果たして? 選挙戦は「post-truth」(脱現実?)で勝てても、現実の経済や社会は「truth」が複雑にからみ合って動いている。どんな未来が待ち受けていることやら。