相撲協会騒動で思い出した三遊亭円丈の『御乱心』

 日馬富士貴ノ岩暴行事件に端を発し、貴乃花とモンゴル人力士との対立、さらには、このままじゃ分裂?と言いたくなるような最近の相撲協会騒動を見ていて、思い出したのが(全然関係ないんだけど)かつての三遊亭円生一門の落語協会分裂事件。で、その顛末を記した三遊亭円丈の『御乱心』を読んでみた。

御乱心―落語協会分裂と、円生とその弟子たち

御乱心―落語協会分裂と、円生とその弟子たち

 副題に「落語協会分裂と、円生とその弟子たち」。真打ちの大量昇格を打ち出した柳家小さんを会長とする落語協会のあり方に反発し、芸に厳しく、真打ち厳選主義を主張する落語原理主義ともいうべき円生に、当時若手だった三遊亭円楽(先代)、立川談志の野心が絡み合って分裂に至るのだが、席亭が落語協会支持を打ち出し、腰砕けとなってしまった騒動の顛末が円生門下の末端真打ちだった円丈の視点で描かれる。
 落語協会の分裂騒動へと突き進み、内部崩壊してく三遊亭円生一門には、帝国陸軍から最近の大企業の不始末に至る日本組織のダメダメさの遺伝子が垣間見える。ある意味、この本もまた「失敗の本質」の物語なのだなあ。そして将軍たちの無謀な作戦のもとで兵が意味もなく死んでいくように、この本でも、師匠のメンツやら兄弟子の野心のために、弟子たちは下に行けば行くほど振り回され、悲劇の進軍を繰り広げることになる。師匠が弟子たちに、落語協会から出るのか戻るのか、自分たちの自由に決めなさいと言いながら、「戻りたい」と師匠の意に反する発言をした途端、恩知らずだなんだかんだと全人格を否定される。このあたり、日本の組織で見かける風景だなあ。その意味で、この本、日本論、組織論としても面白く参考になる。
 ちなみに目次で内容をみると、こんな感じ。

円丈真打披露
円楽の祝儀
円生登場
伝家の宝刀
深夜の長電話
悲劇の一門へ
円楽の逆襲
新協会設立
円生、小さん トップ会談
三遊協会・記者会見
席亭会議の波紋
“幹部”の魅力
恩知らず!
一門孤立
新たな亀裂
「寄席」に出たい
円生倒れる
通夜の独演
元弟子弔問
協会預かり
それから

 三遊亭一門、途中から疑心暗鬼で、廃業する者も出てくる。まさに「悲劇の一門」。円丈がユーモアを交え書く物語は、単なる悲劇というよりも悲喜劇の様相を呈する。この雰囲気は笠原和夫が脚本を書いた「仁義なき戦い」に似ている。面白うて、やがて悲しき、日本の組織なんだなあ。また師匠と兄弟子が、弟子をいたぶるところは連合赤軍のようでもある。総括という名のリンチみたいな。これもまた日本の組織文化の一つなのかなあ。そして当たり前かもしれないけど、芸と人格は一致しないのだなあ。芸を極めても、人格がついてくるわけでもない。

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