五百蔵容『砕かれたハリルホジッチ・プラン』を読む

 

  何が何だかわからないうちに突如、発表されたハリルホジッチ監督の解任。選手とのコミュニケーション不足と言うけど、本当にそれが理由? という感じで、いまだに謎。前回ブラジル・ワールドカップのドイツ対アルジェリア戦など、ハリルホジッチの戦術を分析した、この本を読むと、この監督が指揮する日本代表の試合を見てみたかったなあ、と心底思う。負けても、勝っても、そのほうが日本サッカーに残すものが多かった気がする。

 目次で内容を見ると

はじめに ハリルホジッチとは何者だったのか?

第1部 日本代表監督・ハリルホジッチの事績

 第1章 日本代表・試行錯誤の歴史とハリルホジッチ(1)

      W杯を目指す強化の歴史

 第2章 ハリルホジッチのプレゼンテーション

 第3章 ハリルホジッチのゲーム(1)

      2014年6月30日(ドイツvsアルジェリア戦)

 第4章 ハリルホジッチのゲーム(2)

      2017年8月31日(日本vsオーストラリア戦)

 第5章 日本代表・試行錯誤の歴史とハリルホジッチ(2)

      エリア戦略の展望

 第6章 「ボールゲーム」としてのサッカーを解釈する

intermission 幻のハリルホジッチ・プランを想像する

第2部 日本サッカーにビジョンはあるか?

 第7章 ハリルホジッチはロシアで通用したか(1)

      戦術家としての優位性

 第8章 ハリルホジッチはロシアで通用したか(2)

      戦術の問題、日本の問題

 第9章 日本サッカーとハリルホジッチ

     「コミュニケーション問題」という悲劇

補遺 1 霜田正浩の証言

   2 ハリルホジッチの遺産

  読んでいると、理論家、戦術家としてのハリルホジッチと世界のサッカー理論の動向がわかる。そして、突然のハリルホジッチ解任以来、なぜ自分が日本代表に関心を失ってしまったかも見えてくる。戦術論的な話が雲散霧消してしまったからなのだなあ。それに、日本サッカーの進化のために、今度のチームがどのような役割を担っているのかも見えない。

 補遺にある、ハリルホジッチを招聘した元技術委員長の霜田正浩氏の証言は、日本サッカーが目指した方向性、なぜハリルホジッチ監督だったのか、ということも理解できて面白いのだが、サッカー協会の会長が代わって、その路線を投げ出してしまった感じ。ラグビーワールドカップで日本ラグビーを開花させたエディ・ジョーンズ監督も相当、個性的で、選手との軋轢があったようだが、協会は監督を支えた。サッカーはそれがなかったのだなあ。体脂肪率の自己管理など同じことを言っているんだけど、ハリルホジッチは風当たりが強い。

 ともあれ、今までやってきたことがちゃぶ台返しにあい、船で言えば、船長もコンパスも海に投げ捨ててしまった感じだなあ。で、どっちに行くんだろう。

 サッカー好き、特に理論なり、戦術に関心を持っている者にとっては、ハリルホジッチ解任には呆然としてしまう。西野監督となると、失神してしまう。こうした感想をもった人々の心情を代弁してくれているのは、こちらの記事...

note.mu

 この本、同様、うんうんと頷きながら、読んでしまう。

 しかし、繰り返しになるが、この本を読んでいると、ハリルホジッチのロシア・ワールドカップを見てみたかったなあ。爆死するにしても、自分たちが何を狙うのか、戦術は明確であったような...。いまは「発狂」というよりも「うつ」の状態だなあ。まあ、ワールドカップが始まってしまえば、世界のサッカーを楽しんで、躁状態になってくるのだが、日本に対する楽しみは消えてしまった。テレビが商業的に盛り上げようと騒ぐほど、心は冷えていく...。

 ネットでは、ブラジルワールドカップと代わり映えしないメンバーに「ロシア卒業旅行」などという声もあるが、ワールドカップ本番前のスイス戦、パラグアイ戦で日本サッカーの未来へ少しでも希望を見せてほしいところだけど...。

 でも、西野監督、雄弁家ではないこともあるかもしれないけど、戦術を語っているイメージがないんだなあ。でも、本は出しているんだ。 ちょっと昔だけど...

挑戦―ブラジルを破るまでの軌跡

挑戦―ブラジルを破るまでの軌跡

 

  ワールドカップが終わった後が楽しみだなあ。西野監督、戦術や理論について語ってほしいなあ。

 ともあれ、いまは五百蔵氏の本を読みながら、ハリルホジッチの戦いぶりを妄想して楽しむしかない。そんな本です。