深沢湖『海を抱いて月に眠る』を読むーー物語でたどる在日コリアンの悲しみの歴史

 佐藤優氏の書評で興味を持ち、読んでみた小説。

海を抱いて月に眠る

海を抱いて月に眠る

 

  ある在日コリアンの家族をめぐる物語。父の死をきっかけに、子どもたちが知らなかった父の本当の姿が明らかになっていく。在日コリアンについては知っているようで知らないことが多い。そのことに改めて気づかせてくれる物語。

 在日コリアンというと、戦前の植民地時代、戦中の強制連行などによって日本に来た人びとというイメージがあったのだが、戦後の混乱期、南北(左右)両派の血で血を洗う抗争と荒廃のなかで日本に渡ってきた難民といってもいい人びとがいたことに思い至る。そして、朝鮮戦争から軍事独裁政権へ、冷戦の最前線として祖国が翻弄されるうちに、日本から半島に戻る道を閉ざされてしまう。

 在日コリアンは、北と南、南でも反共軍事政権支持派と民主派、左と右、日本人に同化するのか民族を貫くのか。一世、二世、三世、それぞれが、それぞれの時代と環境のなかで選択を強いられる。国籍の問題、さらに同じ漢字の名前でもハングルで読むのか、日本語で読むのか。好むと好まざるとかかわらず、選択を強いられ、中立という中途半端が許されない。その過酷さが物語として語られていく。

 一方で、これは家族愛、友愛、祖国愛といった愛の物語でもある。小説として面白いし、朝鮮半島と日本の歴史を知るうえでも刺激的な本。佐藤優氏が激賞するのもわかる。『海を抱いて月に眠る』の巻末には、参考文献が載っている。こちらのリストに出ている本も読んでみたくなった。

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