マイケル・ルイス『フラッシュ・ボーイズ』を読む−−瞬きする間もなく、かすめとられる時代

 デビュー作の『ライアーズ・ポーカー』以来、『世紀の空売り』『ブーメラン』と、マイケル・ルイスの金融ノンフィクションは面白いが、今回のターゲットは超高速取引。シカゴとニューヨークを直線で結ぶ光ケーブルを引こうとする話に始まり、売りに出ていたはずの注文が、取引ボタンを押したとたんに蜃気楼のように消えてしまうことに疑問を持った投資銀行の行員が、その謎を追跡してくところから、売買注文を先取りしてサヤを抜く超高速取引業者の姿を描いていく。ミステリー仕立てのノンフィクションといった感じもする。複雑、難解になりがちな金融やテクノロジーの世界をエンターテインメントとして読ませる術をマイケル・ルイスは持っている。だから、面白い。電子化された証券マーケットの裏側に、こんな世界があるのだという驚きを与えてくれる。そして、単なる面白さに終わらず、こうした先取り取引が放置されているマーケットが公正といえるのかどうか−−現代の金融界に対する鋭い問題提起となっている。
 目次で内容を見ると、こんな感じ...

序 章 幻想のウォール街
第1章 時は金なり
第2章 取引画面の蜃気楼
第3章 捕食者の手口
第4章 捕食者の足跡を追う
第5章 ゴールドマン・サックスは何を恐れたか?
第6章 新しい取引所をつくる
第7章 市場の未来をかいま見る
第8章 セルゲイはなぜコードを持ち出したか?
終 章 光より速く

 捕食者というのが、10億分の1秒の世界で取引を先回りして儲ける超高速取引業者のこと。IT化というのは、ここまで来ているのだなあ、と改めて感心させられる。情報(コンピューター)だけでなく、通信の知識があって、この戦いに勝てるのだなあ。そして、公正さを目指した取引に関する規制がかえって高速取引業者に利益をもたらしているところなど、テクノロジーに規制がついていけないのだなあ。
 で、マイケル・ルイスの話が海の向こうの日本と無縁な話かというと、そうはいえないということをFACTA発行人の阿部重夫氏が「日本のフラッシュ・ボーイズ」という解説で書いている。
ライアーズ・ポーカー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫) ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる (文春文庫)