上場企業の4割で日銀が実質大株主。この国のかたちは、国家社会主義か、国家資本主義か
こういう記事を見ると、日本という「国のかたち」がわからなくなってくる。
うーん。アベノミクスの「3本の矢」のひとつ、超金融緩和の一環として、日銀がETFを爆買いしているうちに、日銀が実質的に持つ株式が増え続け、保有比率上位10位内の株主を「大株主」とすると、上場3735社中1446社、39%で日銀が大株主になってしまっているのだとか。1年前は833社だったらしいから、好景気、株式好調といわれながら、株式市場はいまだに日銀頼み。しかも、東京ドーム、サッポロホールディング、ユニチカ、日本板硝子、イオンでは実質筆頭株主なのだとか。サッポロの株主優待なんて、どうなっているんだろう*1。
それにしても...。日銀、いわば国家が大企業の大株主、筆頭株主となる。こういう経済体制をなんと呼ぶのだろう。国家社会主義というのか、国家資本主義というのか...。国家社会主義で労働者の名前がつくと、こんな政党になってしまう =>https://goo.gl/KQ4iru 。まあ、これは冗談だけど。
経済が危機的なときに非伝統的な金融政策をとることはあると思うし、必要な場合もある。第2次安倍政権発足当初に大胆な金融政策をとることは当時としては妥当な政策だと思った。と同時に、この政策が難しいのは、その限度であり、出口。米国も欧州も同じような政策をとったが、出口、つまり、どのようにやめるかはいつも議論になっていた。
非伝統的な金融大出動、麻酔薬に似ている。一時の痛みは和らげることはできるが、過ぎれば、麻薬となる。本来は、構造改革など他の痛みを抑えるためのはずが、痛みのない状態、ハイな状態に溺れてしまう危険もある。今の状況はどうなのだろう...。日銀のETF買いは、麻酔か?麻薬か?
連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録
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で、この記事を読んでいて、もうひとつ深刻だと思ったのは、この大株主論議とともに付いていた表から見える風景。発行済み株式数に占める保有率、そして浮動株に占める保有率のランキングから見えてくるものだ。既に日銀保有率が発行済み株式の2割近くになっている会社がある。そして浮動株。浮動株が少ないということは、少しの買いで株は跳ね上がり、反対に売りが出れば、暴落となりかねず、株価の変動性が増す。ユニクロのファーストリテイリングは浮動株の7割近くを吸い上げられてしまっているというのは衝撃でもある。
浮動株が少なく株式の流動性が低い銘柄では、適正な株価形成が難しくなるという。かつて日本の上場企業は株式持ち合い制度に支えられていた。企業や銀行が仲間内で相互に株式を持ち合って流動性を落とし、買い占めを防ぐと同時に、株価を高めに維持するという一挙両得のシステム。日本企業にとっては居心地が良かったが、事実上、第三者の売り買いを制限する仕組みでもあり、海外からの批判も強かった。また、いつまでも持ちこたえられる仕組みでもなかった。バブルの経験を思い出せば、わかるように、無理に維持しようとしても、壊れるときには壮大に壊れる。
バブル崩壊やグローバル化の進展とともに持ち合い株の解消は進んでいるといわれるが、その一方で、日銀による壮大な買い上げで、新たな仕組みになってしまっているのかなあ。だけど、日銀としても、これだけ大きな存在になると、売れば暴落という話で、売りたくても売れなくなる。株の買い占めでも最も難しいのは出口、売ることといわれるからなあ。こんなに買って、どうする気なんだろう。株価が下げれば、膨大な評価損を抱え込むだろうに。
官邸や日銀に日本経済のグランドデザインはあるのだろうか。急場しのぎをしているうちに、なりたくもない日本一の大株主になってしまったのか。あるいは、官邸・日銀主導のもと、国家が会社を管理し、21世紀型の新たな経済体制を目指そうという壮大なる野望があるのか。
しかし、この株価構造だと、怖くて買えないよなあ。既に日銀によって株価が嵩上げされているのかもしれないし、今の株価水準が適正なのかどうか。みんながそう思えば、経済や業績が良くなっても株価は反応しにくくなるだろう。
株価が政府・日銀次第では、長期で株価を持ち続けるのも怖いなあ。バブルの真っ盛り、「政府・日銀が株価が下がるようなことをすると思いますか。そんなことをして誰が得をするんですか」って言っていたファンドマネージャーが結構いたなあ。それでも、壊れるときには壊れる、ということを、あのとき、学んだはずだけど...。
むしろ手練れの証券・金融界の人たちは、日本の行く末よりも、まずは流動性が低いなかで、この乱高下しやすい構造を利用して、どう儲けるのか。超高速取引で速攻勝負とか考えるのかな。この日経の記事って、日本の「新しい現実」を見せると同時に、さあ、これからどうするって問い掛けている記事のようにも読める。官邸、日銀、霞が関、企業、投資家それぞれに。さあ、どうするって。