マルジャン・サラトビ「ペルセポリス」I

ペルセポリスI イランの少女マルジ

ペルセポリスI イランの少女マルジ

 「Newsweek日本語版」で、グラフィック小説の代表として紹介されているのを見て興味を持ち、読んだ。イラン革命下の少女時代の回想記。話は、パーレビ時代にもさかのぼり、一族や周囲の人々の数奇な運命が語られる。イラン版の「ワイルド・スワン」だな、と思う。政治にしても、宗教にしても、「正義」の時代ほど、不寛容で、残酷なものはないのかもしれない。吉田満が文語体でしか、戦艦大和の最期に際した自らの戦争体験を語れなかったように、サラトビもコミック(グラフィック小説)という形式でしか、自分の過去を語れなかったのだろう。あまりにも生々しい死と哀しみを日常的な言葉によって描くことはつらいから。コミックにすることで、ユーモアを交えて、ちょっと距離を置いて、厳しい現実と当時の心情を赤裸々に描くことが可能になったのだろう。悲劇的な状況で起きる、ときとして喜劇的な出来事こそ、人生と運命の不可思議さ、不条理を象徴しているのかもしれない。

マーズ・アタック!

マーズ・アタック! [DVD]

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 これほどくだらない映画に、これほどスターが出演して、これほど予算が投じられるのだから、ハリウッドは不思議。まあ、ティム・バートンだから成立したんだろうな。バートンでなければ、ジャック・ニコルソンも、グレン・クロースも、アネット・ベニングも出なかっただろうな。ロッド・スタイガーまで出ているんだから驚き。ナタリー・ポートマンも出ていたのかあ。トム・ジョーンズは…。まあ、ティム・バートンでなくても出ていたか…。しかし、なあ…。この映画、ティム・バートン自体が「エド・ウッド」になってしまった感じ。でも、あまりのくだらなさに思わず、見てしまうところもある。CATVでやっていたので、ついチョイ見してしまった。

大統領の理髪師

大統領の理髪師 [DVD]

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 ソン・ガンホ主演の映画なので、レンタルビデオ屋さんで見かけて、迷わず、借りてくる。ここでいう大統領は、朴正煕。朴大統領の時代背景をバックにした人情モノ・親子愛モノといった感じ。映画を見ていて、現代韓国にとって朴正煕というのは、どのような存在なのだろうか、と思う。反共のためには手段を選ばず、反体制派の弾圧にも躊躇しなかったことは映画の中でも明らかなのだが、朴大統領自身を完全に否定しているわけでもない。むしろ、大統領警護室や情報部などを君側の奸として描いている風がある。朴大統領については愛憎半ばしているのだろうか。それとも、次の大統領の全斗煥に対する憎しみのほうが深いのだろうか。

ロバート・ワイズ死去(2005年9月14日)

ミュージカルの古典的名作「サウンド・オブ・ミュージック」と「ウエスト・サイド物語」でアカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞したハリウッド映画界の巨匠、ロバート・ワイズ監督が14日、心臓の病気で死去した。91歳だった。近親者によると、監督は10日に誕生日を迎えたが、その後体調が急変。ロサンゼルスの病院に入院していた。

 このところ、CATVで「サウンド・オブ・ミュージック」を放映している。ロバート・ワイズの追悼編成。でも、「サウンド・オブ・ミュージック」だけというのもかわいそうだな。この映画をファミリー映画と見ると、ワイズの作品の系譜からちょっと外れている。もともとは社会派の監督で、大衆性はあったけど、ファミリー映画タイプの人ではなかった。「サウンド・オブ・ミュージック」も、ナチスドイツから逃れて亡命する映画だから、そのあたりでワイズとつながるということなんだな。でも「スター!」まで行くと、これは寄り道だったなあ。「ウエスト・サイド物語」で、ミュージカルが得意とみられ、もう一度、ジュリー・アンドリュースとセットで、とプロデューサーは思ったのだろうけど、これは失敗だった、ワイズというと、ミュージカルよりも、むしろ、「アンドロメダ…」とか、「深く静かに潜航せよ」とか好きだったけど。「ウエスト…サイド」はやはりジェローム・ロビンスの存在が大きいし。そういえば、ワイズは「市民ケーン」の編集者でもあったのだな。