「“マンガ”戦場へ行く」とコミック・ジャーナリスト

 昨日の深夜、NHK-BSの世界のドキュメンタリーで「“マンガ”戦場へ行く」という番組を偶然、見た。戦争体験を描いたマンガから戦争の現場を取材するコミック・ジャーナリストの作品までをレポートした番組。NHKによる番組紹介は以下のようなもの。

今、世界の戦争マンガ家たちは、誰でも気楽に読めるマンガを通して、実写映像では語り尽くせない真の戦争の恐ろしさを伝える使命に駆られている。その動機の背景には何があるのだろうか。70年以上の歴史を持つ戦争マンガだが、当初は戦争体験者の目線から伝えるものはほとんどなかった。それを変えたのが、中沢啓治氏が自らの被爆体験を描いた“はだしのゲン”だった。「マンガ家は、戦争の恐ろしさを人々の記憶に残す責任がある。」と中沢氏は語る。そして今では、マンガ家が自ら戦場へ赴き、その体験をもとに戦争を描くことは当たり前になった。ジョー・サッコは、1996年、パレスチナ人の絶望的な状況を描き、“コミック・ジャーナリスト”の地位を確立した。9.11テロ以降、公正さを欠く報道が続いたことも、マンガ家が戦地へ向かう要因になった。

 最後のテロップにも出てくるが、画像編集ソフトで写真がデジタルでいかようにも加工できる時代になり、かえって絵(コミック)というメディアが再評価されてるようになってしまった。写真では刺激が強すぎて、かえって本質が見えにくくなってしまうものを、コミックという表現手段は個人の視点を通して現場の様子を伝える力を持つようになった。写真というメディアの客観性に対する信仰が揺らぐ中で、主観的な記録が重みを持つようになった。
 番組の中で、戦争や革命を体験者の立場から書いた先駆け的な作品は、中沢啓治の「はだしのゲン」にあるという。

〔コミック版〕はだしのゲン 全10巻

〔コミック版〕はだしのゲン 全10巻

 そして次に、アウシュビッツで生き残った父親を描いたアート・スピーゲルマンの「マウス--アウシュビッツを生きのびた父親の物語」
マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語

マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語

 原題では、イラン革命に遭遇した少女時代を回顧したマルジャン・サラトビの「ペルセポリス イランの少女マルジ」
ペルセポリスI イランの少女マルジ

ペルセポリスI イランの少女マルジ

 こうした先駆的な作品のあと、コミック・ジャーナリストが現地に取材したコミック・ルポのような新たな手法が登場する。ここで、まず紹介されていたのは、ジョー・サッコの「パレスチナ
パレスチナ

パレスチナ

 「パレスチナ」が日本語に翻訳されていたのは、びっくり。もう一つはまだ日本語訳はないようで、テッド・ロールの「アフガニスタン往還」(番組では紹介されていたが、原題は「To Afghanistan and Back: A Graphic Travelogue」)。
To Afghanistan and Back: A Graphic Travelougue

To Afghanistan and Back: A Graphic Travelougue

 このほか、スイスの新聞にコミック・レポートを書いているパトリック・シャパット、イラクからの帰還兵を取材しているデビッド・サックス、ユーゴスラビア紛争に巻き込まれた友人を描いたジョー・クーバート、ベイルート内戦時の家族を描いたジーナ・アビラチットが紹介されていた。
 「マウス」のアート・スピーゲルマン911を記録した「消えたタワーの影のなかで」という作品も描いている。
消えたタワーの影のなかで

消えたタワーの影のなかで

 こうしたコミックはグラフィック・ノベル、コミック・ルポの新しい時代をつくっていくのだろう。要注目。