エジプトのロゼッタ革命、フェイスブックとウィキリークスの革命

 エジプトの非暴力革命は世界史に残る大事件となった。これから、どのような政権ができるのか、わからないが、暴力によってではなく、平和的なデモによって(散発的な暴動はあったにせよ)、独裁政権が倒れた。主役はもちろんエジプトの人々だが、その背後にサポーターとして見えたのは、フェイスブックウィキリークスだった。そう思うと、『フェイスブック――若き天才の野望』の著者、デビッド・カークパトリックが日経ビジネスオンラインのインタビューで答えていた、こんな話がとても含蓄のあるものに思えてくる。

マークは自分を「ハッカー」だと思っているんだ。フェイスブックIBMソニーみたいなエスタブリッシュメントの企業じゃない。どちらかと言えば、ウィキリークスに近い(笑)。ハッカーも世界を変えようとしているよね。たいていは世界をぶっ壊そうとしているわけだけど。マークがやりたいのは、その逆でクリエイティブな人間たちを集めて世界をもっと素晴らしいものに変えようとしている。だから、ハッカー文化が会社から無くならないように気をつけているし、彼自身は確信的ハッカーなんだ。

 フェイスブックマーク・ザッカーバーグも、ウィキリークスジュリアン・アサンジも、オープンな世界は、より良い世界をつくるという信念をもったハッカーだ。そのふたりがつくった仕組みがいずれもエジプト革命の推進役になった。フェイスブックには、今回の革命の原動力になったコミュニィーサイトがある*1
 一方、ウィキリークスが暴露した外交公電は、ムバラク大統領が自国民の民主主義を信ぜず、スレイマン副大統領がCIAに近い人物という報道を生み出した。これでは、いくら改革といっても、国民は信用しない。さらに、米国がエジプトで拷問などの人権侵害が行われていることは熟知していたことも、反政府派と接触していることも公電でも明白になってしまったわけで、下手な介入はできなくなった。ウィキリークスが米国の外交公電を暴露したときは行き過ぎではないかと思ったし、今でもそう思ってもいるのだが、チュニジア、エジプトなどの革命で果たした役割の大きさは認めざるを得ないところがある。
 フェイスブックウィキリークスの理想主義的側面が今回の非暴力革命を支えるインフラとなった。カークパトリック風にいえば、平和裡に政権をぶっ壊すところまでは達成し、歴史を創った。今度は、素晴らしい社会をクリエイトできるかという最難関の課題に取り組むことになる。もし新しいエジプトを創造していくうえでも「オープンな世界」が力を発揮することになるならば、「世界を変える」という理想は、見果てぬ夢でなかったことが証明される。

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

*1:有名なところでは「4月6日運動(6th of April Youth Movement)」= http://www.facebook.com/shabab6april = とか、グーグルの幹部もメンバーといわれる「We are all Khaled Said」 = http://www.facebook.com/elshaheeed.co.uk = とか