アカデミー賞。ハリウッドは「英国王のスピーチ」に恋をした。敬遠された「ソーシャル・ネットワーク」?

アカデミー賞の作品賞は、トム・フーパー監督「英国王のスピーチ」が獲得した。同作品は監督賞などに続く4冠。渡辺謙が出演した「インセプション」も撮影など4冠を獲得した。「ソーシャル・ネットワーク」は前評判で「英国王」との一騎打ちとみられていたが、編集賞など3冠に終わった。

 「英国王のスピーチ」と「ソーシャル・ネットワーク」の一騎打ちと言われた今回のアカデミー賞だったが、授賞式が近づくにつれ「英国王のスピーチ」優勢との声が高まっていった。結果は、「英国王のスピーチ」が作品、監督、脚本、主演男優の主要4部門を制し、「ソーシャル」は脚色、編集、作曲の3賞で終わってしまった。基本的に今回はあまり番狂わせがなく、がちがちの本命といわれていたコリン・ファース(「英国王のスピーチ」)、ナタリー・ポートマン(「ブラックスワン」)は主演賞をとった。しかし、それも監督賞だけは「ソーシャル」のデビッド・フィンチャーが本命と思われていたのを「英国王のスピーチ」のトム・フーバーが持っていってしまった。
The King's Speech アカデミー賞授賞式を中継したWOWOWでは、今回の結果を保守的な選択と言っていた解説者がいたが、もともとハリウッドは保守的だし、作品賞のプレゼンターを務めたスティーブン・スピルバーグ自身、発表に際して、候補作から、あるものは「真夜中のカーボーイ」「ディア・ハンター」などの仲間入りし(作品賞受賞)、あるものは「市民ケーン」「卒業」などの仲間入り(ノミネーションで終わる)と話していた。歴史に残る作品かどうかは賞とは別。アカデミー賞の栄誉は重要だが、それが全てではない。これは「ソーシャル・ネットワーク」というよりも「インセプション」に捧げらた台詞のようにも思えるが...。
ソーシャル・ネットワーク 【デラックス・コレクターズ・エディション】(2枚組) [DVD] 「ソーシャル・ネットワーク」は、フェイスブックに近づきすぎたように思える。フェイスブックの創業秘話を赤裸々に、そしてマーク・ザッカーバーグを批判的に描くようでいて、「サタデーナイト・ライブ」で主演のジェシー・アイゼンバーグとマーク・ザッカーマンが一緒に出ていたりすると、この映画はフェイスブックの巧妙なPRになっているのではないかと思えてしまう。新しいものを描いた映画ほど腐るのが速いということもあり、そのあたりを指摘する映画評論家もいたが、フェイスブックが「ソーシャル」を利用しだしたところも、忌避される一因になったかもしれない。サタデーナイト・ライブは話題作りにはなったが、賞レースという点でいうと逆効果で、賞取りマーケティングとしては失敗したようにも思える。
 ザッカーバーグとアイゼンバーグがサタデーナイト・ライブで共演[ビデオ有](TechClunch) => http://t.co/lPOY4Rw
 一方、時代は「英国王のスピーチ」だったのかもしれない。ハンディキャップを持つ人が苦難を克服する話も、英国のロイヤル・ファミリーも、英国人の名優も、ハリウッドは昔から大好きだが、それとともに、中東・北アフリカでの民主化運動の盛り上がりを考えると、映画の題材も今はカネよりも政治だったのかもしれない。その意味では、「英国王」という選択は古臭いようでいて、時代の空気を反映している。政治的リーダーのスピーチが重みを持つ時代という空気がアカデミー賞投票の時期と重なったのかも。長編ドキュメンタリー賞は、金融危機の内幕を暴いた「Inside Job」が受賞している。
 でも、個人的には「インセプション」だなあ。撮影、視覚効果、録音、音響編集と4冠。監督賞に、クリストファー・ノーランがノミネートもされていないなど、言語道断だなあ。ひとつの世界を創造する、しかも、オリジナル・シナリオで、ということを考えると、監督賞はノーランなんじゃないかと思うけど、マーティン・スコセッシだって、なかなか取れなかったんだからなあ。デビッド・フィンチャーもそうだけど、才気煥発型の監督は嫌われるんだろうか。
★アカデミー公式サイト「Oscar.com」のノミネートと受賞者(英語)
 http://oscar.go.com/nominations
アカデミー賞で『英国王のスピーチ』は作品賞など最多4部門を受賞!(MovieWalker)=受賞者全リストあり
 http://news.walkerplus.com/2011/0228/15/

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