カーティス・フェイス『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』
- 作者: カーティス・フェイス,飯尾博信+常盤洋二,楡井浩一
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2007/10/17
- メディア: 単行本
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目次で内容を見ると...
序 章 ピットのプリンスに拝謁した日
第1章 リスク中毒
第2章 タートルの心をなだめる
第3章 いちばんきついのは、最初の200万ドルだ
第4章 タートルのように考える
第5章 エッジのある取引をする
第6章 エッジから転落する
第7章 リスクを測る
第8章 リスクと資金管理
第9章 タートル流積み木
第10章 タートル流トレーディング:一歩ずつ
第11章 バックテストのうそ
第12章 地に足をつけて
第13章 隙のないシステム
第14章 心の悪魔を手なずけろ
エピローグ 人生の目標は何か
ボーナス章 タートル流トレーディング規則原本
トレーディングの技術書であると同時に、筆者のタートル体験記でもあり、最後は人生論でもある。筆者は最年少でトレーダー育成集団に選ばれ、結果も出したわけだが、そのままヘッジファンドを作ったりするわけでもなく、むしろ起業に取り組み、破産同然になったりする波瀾万丈の人生を送っている。カネへの執着よりも、ゲームに勝つことに執念を燃やすタイプなのかもしれない。
取り扱うマーケットは主に商品・為替・債券などの先物相場。ニューヨークではなく、シカゴの世界。シカゴの先物トレーダーが、トレーダーを育てられるかどうかで賭けをするという話を読んで、エディ・マーフィー、ダン・エイクロイド主演、ジョン・ランディス監督の「大逆転」を思い出してしまった。もっとも現実のカリスマ・トレーダーは、映画のように他人の人生をもてあそぶのではなく、自分たちが得た技法を伝授している。そして、筆者が取り扱ったのは、映画のような裁定取引ではなく、システム取引だった。システムを使ってトレーディングすれば、みんな同じ結果が出せそうだが、タートルの中でもトレーダーによって実績にはかなり差があったという。システム取引にしても、人間の心理が大きいのだなあ。
で、印象に残ったところをいくつか、抜書きすると...
まず、タートルのトレーディング4原則
1 エッジ(優位性)のある取引をせよ
2 リスクを管理せよ
3 首尾一貫せよ
4 シンプルであれ
どれも単純だけで、実行し続けることが難そう。
で、エッジをどう考えるかというと...
トレンドフォロー派にとってエッジの源は、支持線、および抵抗線が突破されたときにトレーダーたちが示す、認知のしかたのギャップにある。支持線、抵抗線が突破されても、トレーダーは以前の考えに固執しており、しかも市場の動きのほうは、新たな現実がすぐに反映されるほどには速くない。だから支持線、抵抗線が突き抜けたときはほかのとき以上に、それまでと同方向に市場の動きが強まるという、統計上、無視できない傾向がある。
というわけで、やっぱりチャートなんだなあ。しかもブレイクアウトで買ったり、売ったりするというシンプルな手法。
この手法自体はよく知られているわけが、それでも、商品取引でトレーダーが成果を出せない原因は...
●計画性のなさ
●過剰なリスク
●非現実的な期待
なるほど。一方、トレーダーのリスクとは...
●ドローダウン.......トレーダーの取引口座の元気を減少させる一連の損失
●ローリターン.......生計が立てられないほどの低利潤期間
●価格ショック.......ひとつ、またはそれ以上の市場で回収不能な大きな損失を招くことになる突然の価格変動
●システムの無用化...市場力学の変化で、前には利益の出ていたシステムが損失を出し始めること
先日、日経平均が1000円以上下げたりしたのは、「価格ショック」になるのだろうな。また、アベノミクスで、これだけ一本調子に株価が上がると、「システムの無用化」も発生しているのかもしれない。国債市場は大荒れだけど、これも「価格」「システム」両面でトレーディングに影響を与えているのだろうなあ。
さて、リスク管理の手法...
わたしたちは自分たちのポジションをユニットと呼ばれる塊で取る。各ユニットの大きさは、取引枚数が1−ATRの価格変動で口座残高の1パーセントになるように設定されていた。100万ドルの取引口座であれば、1万ドルだ。そこで、特定の市場で値幅1−ATRが示す金額を見て、1万ドルをそれで割れば、リッチがわたしたちに割り当ててくれた取引資金100万ドルごとに取引できる枚数が出る。この数字を、わたしたちはユニット・サイズと呼ぶ。不安定な市場、もしくは高額の契約の市場は、低額の契約の市場、もしくは安定度の高い市場より、ユニットは小さくなる。
ATRはAverage True Range、本では「真の値幅の移動平均」と訳されている。こういうリスク許容度の計算の仕方があったのだな。不勉強で知らなかった。いずれにせよ、運用資金をどう守るかがトレーディングのポイントというのは、トレーディング本でも共通している。
トレーディングでのチャートを読むテクニック(ツール)については基本的なものだけ紹介しているが、それは...
これまたシンプル。検証してみると、意外と時限退出という単純極まる手法のパフォーマンスが良かったりするらしい。
リスクを分散する手法として、トレーディングの対象とする市場の分散をあげている。市場の特徴としては...
1 ファンダメンタルズ主導の市場
通貨や金利など、トレーディングが主要な力を持たない市場。もっと大きいマクロ経済学的な出来事や力が相場を動かす。時とともに状況は変わってきたようだが、通貨や金利の市場では、現在でも連邦準備理事会および他の中央銀行や国の金融政策のほうが、スペキュレーターよりも相場に大きな影響力を持つといいだろう。これらの市場は最も流動性が高く、はっきりしたトレンドをともまうので、トレンドフォロー派にとっては最も取引しやすい。
2 スペキュレーター主導の市場
株式やコーヒー、金、銀、原油などの先物で、スペキュレーターが政府や大手ヘッジャーよりも大きな影響力を持つ市場。相場は参加者の相場観主導で動く。トレンドフォロー派にとってこれらの市場は取引しにくい。
3 集合的なデリバティブ市場
主導するのは投機だが、取引される商品が、個々の銘柄の集合体である市場のデリバティブであるため、投機が希薄になっている市場。その恒例が、e-ミニS&P先物契約だ。上下動はするが、その範囲は基礎となるS&P500株価指数によって抑制されている。同時にS&P株価指標も、間接的にのみスペキュレーターによって動く。株価指数は、多くの銘柄の純粋に投機的な動きを統合するので、アベレージング・アウト(平均化による個々の上下動相殺)とモメンタムの希薄化の働きがある。トレンドフォロー派にとってこれらの市場は最も取引しにくい。
なるほどなあ。そういえば、昔、知り合いの某社の財務の達人が一番好きなのは為替市場といっていた。その人は流動性が高いからといっていたが、トレンドフォローでもあったのだな。
最終章の「タートル流トレーディング規則原本」では、ポジションのサイズの決め方、参入、ストップ(損切り)、退出(利食い)などのポイントが紹介されている。ある若者のタートル体験記であると同時に、トレーディングのノウハウ書としても面白い。