「アンディフィーテッド 栄光の勝利」−−事実は小説より奇なり、ドラマより感動的なり

 アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した記録映画。自動車工場が閉鎖され、荒れ果てたメンフィスの貧困地区にある公立校のアメリカン・フットボール部を舞台にした物語。映画の内容はこんな感じ。

テネシー州メンフィスにある公立高校のアメフトチーム“マナサス・タイガース”。州内で最弱と言われたこのチームが、ボランティアでコーチを買って出たひとりの男の登場により、ガラリと一変。貧困や暴力など、さまざまな事情を抱えた問題児の選手たちが、情熱的な彼の指導の下、すっかり結束してアンディフィーテッド=不敗のチームに生まれ変わり、奇跡の快進撃を続けていくさまを長期密着取材。ドキュメンタリーでありながら、ドラマにも負けない熱い感動と興奮を与えてくれる秀作として高い評価と支持を得た。

 で、これが事実は小説よりも奇なり、というか、予想外の展開となる感動作。小説やら、ドラマの映画だったら、ご都合主義と思われるような幸福が現実の人生にも起こり得るのだなあ。努力している人間は誰かが見ていてくれるともいえるし、誰かが見ていてくれると思うから人間は努力を続けることができるともいえる。努力をしていても必ずしも報われるわけでもないし、ケガという理不尽な出来事に襲われることもある。コーチも選手だった時代に、その理不尽さを知っているから、選手たちを見守ることができるのだろうか。生徒一人一人にも様々な事情があり、人生があるが、コーチたちにもそれぞれの人生がある。そこが描かれていることが深みを生むのだな。
 そして思うのは、人間というのは変わるのだなあ。諦めずに見ていくことで、変わることがあるのだな。だから、見放してはいけないのだなあ。誰かがいてくれることで立ち直る者がいるし、反対に誰も見ていてくれないと思った時、優等生でさえ心折れ、壊れかねない。そのときに寄り添ってくれるコーチや教師がいたのかどうかは、人生を大きく左右するのだなあ。そして、そうした愛情の中で育てられ、自信を持ち、自立した時、みんな顔が変わってくる。それが不思議でもあった。
 「ホープ・ドリームス」はバスケットボールだったが、高校スポーツを取材した米国のドキュメンタリーには傑作が多い。高校というのは人生の大きな分岐点なのだなあ。夢と現実の架け橋に位置する場所なのかもしれない。

フープ・ドリームス [DVD]

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