「グランド・ブタペスト・ホテル」

 先日のアカデミー賞で美術、衣装、メイキャップ・ヘアスタイリング、作曲の4賞をとった映画。作品、監督、脚本、撮影、編集でもノミネートされている。それがわかる独創的な世界を持った映画。ウェス・アンダーソンの映画を見るのは初めてだったが、面白かったし、評判になるだけの才能を持った人物であることがわかる。大体、俳優の顔ぶれが尋常じゃない。
 レイフ・ファインズに始まり、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブレディ、ウィレム・デフォージェフ・ゴールドブラムハーヴェイ・カイテルジュード・ロウビル・マーレイエドワード・ノートントム・ウィルキンソンティルダ・スウィントン、レア・セドゥ、そしてウェス・アンダーソンの親友のオーウェン・ウィルソン。主演を張れるような俳優たちが、え、これだけというぐらい少ししか出てこない役を嬉々と演じている。みんな、この映画に出たいんだなあ。ウェス・アンダーソンは独創的な映画を創りだすから、そこに参加したいんだろうなあ。老いた伯爵夫人を演じたティルダ・スウィントンなど本当によくやるなあ、と思わせる。
 ともあれ、久しぶりに映画の面白さを堪能できる作品。俳優の演技は端役に至るまでみんな一流どころばかりだし、映像は絵本のようでもあり、レトロなサイレント映画に彩色したようでもあり、独特の世界。筋は欧米のほら話風というか、欧州の某国を舞台に先の読めない奇想天外の物語が展開されていく。しかし、ウェス・アンダーソンが違うのは、面白く軽快なコメディ風に展開していくし、人々に注ぐメモやさしいのだが、描かれている人々の運命は過酷であり、甘いものではない。民族浄化、民族差別、全体主義といった現実の重さが映画の底にある。単純な時代ではないんだなあ。このあたりの感覚は是枝裕和監督に似ているかもしれない。「奇跡」にしても「そして父になる」にしても、是枝作品はあたたかく、やさしいが、甘くはないし、予定調和で終わったりもしない。ウェス・アンダーソンも甘くベタベタとはしていない。
 ウェス・アンダーソン、今まで何となく敬遠して、あまり見てこなかったが、昔の映画もみてみようかと思った。