スポットライト

スポットライト 世紀のスクープ[Blu-ray]

スポットライト 世紀のスクープ[Blu-ray]

 遅ればせながら、見ました。神父による児童の性的虐待カトリック教会が組織的に隠蔽していたことを調査報道によって告発した米ボストン・グローブ紙の実話を映画化したアカデミー作品賞受賞作品。「スポットライト」は調査報道チームの名前。調査報道は新聞ジャーナリズムの華でもあり、有名なところであ、こんな作品も。
大統領の陰謀 [Blu-ray]

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 ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件を暴いたワシントンポストの伝説的な調査報道の物語。ロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンが輝いていたなあ。しかし、それから時は過ぎ、インターネットの時代となり、新聞社を取り巻く環境は厳しく、映画の内容もより現実的で、苦いのものになっている。「スポットライト」では記者は単純なヒーローではない。
 地元の新聞が地元の恥部をレポートすることには反発もあるし、ホワイトハウスの犯罪を暴くのとは別の圧迫感がある。しかも、住民の多くが信仰している教会のスキャンダル。いくつかの事件は散発的に報じられてきたが、調査報道で教会の組織的な隠蔽であることをスクープできたのは、編集局長が親会社のニューヨーク・タイムズから送り込まれたよそ者になったため、ということは大きいのかもしれない。記者が誰も知らなかったというよりも、過去にも問題が指摘され、新聞社にも告発が寄せられながら、とりあげてこなかった。知ろうとしなかったし、見ようとしなったということがだんだんわかってくる。締切に追われ、他紙との競争のなかで、手間のかかるものは避けてきたのかもしれない。そうした苦い思いに現代の記者のリアリティが見える。
 告発状が寄せられていたのに、そのときはきちんと取材しなかった。しかも、告発状が来たことさえ記憶していない。そういうこともあるのだろうなあ。その間に犠牲者が生まれている。しかし、映画の中で編集局長がいうように、過去を振り返るよりも、過ちに気づいたら、改め、報道することに意味があるのだろう。「fog of war」という言葉があるが、戦争の霧の中で兵士が手探りで状況判断しながら戦うように、ジャーナリストも暗闇の中で、わずかな光をたよりに真実に近づく努力をしていくのだろう。そう考えると、「スポットライト」というタイトルは、調査報道のチーム名としてだけでなく、ジャーナリズムそのものの現実を意味するものでもあるのだな。
 調査報道チームを率いるベテラン記者役は、マイケル・キートンキートンには、ニューヨークのタブロイド紙の記者の1日を演じた「ザ・ペーパー」という映画がある。これも好きな映画。米国では、新聞記者を主人公にした映画が多いが、これなど記者の姿を描いた名作の一つだと思うんだけど。 しかし、「スポットライト」のような努力を重ねても、新聞の経営は厳しい。この報道でボストン・グローブが公益報道部門でピューリッツァー賞を受賞したのは2003年だから、もう10年以上前の話。その後、2013年にはニューヨーク・タイムズボストン・グローブレッドソックスのオーナーに売却している。
 この「スポットライト」でも、性的虐待事件は以前から被害者グループが本を出すなど告発の動きがあった。個別の事件はインターネットでも出ていたようだ。そうした話を集め、裏付けを取り、情報の信頼性を強化し、より広い視野から大きな全体像を描き、個人の問題、個々の問題としてではなく、組織、システムの問題として捉えて、幅広い層から信頼を得ているメディアが報道する。それによって、多くの人が社会問題として認識し、最後はバチカンも動す。新聞がなくなったとしたら、この役割を果たすのは何なのだろう。ネットメディアが代わるのだろうか。
 この映画が米国で公開された2015年には、「Post Trueth」とか、「フェイクニュース」とか言った言葉はまだ聞かなかったが、今になってみると、この映画が見せたジャーナリズムの意味を増してくるなあ。で、米国では、トランプ政権が誕生してから、ニューヨークタイムズの読者やCNNの視聴者が増えているという。ここへきてジャーナリズムに対する期待が高まっているようだ。新聞でも、ネットでもいいんですが、ジャーナリズムって、やっぱり大切じゃないかと考えさせてくれる映画。