シェイクスピアの『リチャード三世』を読む

シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)

 「A horse! A horse! My kingdom for a horse!」の台詞が有名なシェイクスピアの戯曲。権謀術数、残虐非道の国王、リチャード三世が主人公。読んだのは松岡和子訳版で、戦場で追い詰められたリチャードの冒頭の台詞は「馬だ! 馬をよこせ! 代わりに俺の王国をくれてやる、馬!」となる。悪党を描いた物語だなあ。しかも、その詭弁、雄弁、強弁に男も女も操作されてしまう。
 印象に残ったリチャードの台詞には、こんなものもある。

 良心とは臆病者の使う言葉にすぎない。そもそも強者をおそれおののかすためにあみ出されたものだ。我々にとっては強力な武器が良心、剣が法律。前進だ! 打って一丸となり、手当り次第に倒せーー

 いまでも本音ではそう考えている政治家がいるんじゃあるまいか。「強力な武器」を「絶対多数の議席」とか読み替えると、さらに現実感が出てくるなあ。シェイクスピアは、人間の心の奥に隠れた声を台詞にして見せる。だから、今も読まれるのだろうし、時代を超えてもリアリティを失わないのだなあ。まあ、人間の本質が変わっていないということでもあるのかもしれない。
 で、「リチャード三世」というと、思い出すのは、全く関係ないように見える、この映画。

 「グッバイガール」。この映画でアカデミー主演男優賞をとったリチャード・ドレイファスが演じていた駆け出しの舞台俳優は、超前衛的な演出の「リチャード三世」を演じているという設定だった。