データを見ると、アメリカって宗教国家って気も
イアン・ブレマーのTwitterはデータが豊富で面白いのだが、こんな数字が...
% of people who are absolutely certain God exists
— ian bremmer (@ianbremmer) 2019年2月14日
Armenia 79%
US 63%
Portugal 44%
Italy 26%
Russia 25%
Spain 25%
Norway 19%
Czech Rep. 13%
UK 12%
France 11%
Germany 10%
(Pew)
神の存在を確信している人がどれだけいるかという国別データ。アメリカは国民の63%で、アルメニアに次ぐ。イタリアとかスペインとかはカソリックで信仰心が厚そうな印象があったが、イタリア26%、スペイン25%。その倍以上というわけで、かなり高い。英国12%、フランス11%と比べると、ダントツ。
アメリカってグローバル・スタンダードの基準のように見られがちだが、世界から見ても、宗教色の強い、かなり特異な国家なのだなあ。そんなことを改めて考えさせられる。やっぱり、アメリカと宗教の関係を考えないと、アメリカの政治、社会を理解することはできないのかもしれない。いまや北朝鮮よりもイランが敵なのも、そんなところに遠因があるのだろうか。韓国の文在寅大統領はカソリックだけど、宗教的なバックグラウンドは有利に働くのか。アメリカと宗教の関係をとりあげた本が多いのもわかる。
建国記念日の朝、雪がちらついているのを見て、思い出した映画
朝、起きたら、雪が降っていた。建国記念日の雪といって思い出す映画は...
大島渚監督の「日本春歌考」。建国記念日が始まったのは、1967年2月11日。この日は雪で、東京は7ミリの積雪*1。この歴史的な日にロケを決めていたと思うのだが、偶然、雪が降ったことで印象的な映像になった。昔、大島渚特集をやっていた、どこかの映画館で見た記憶があるのだが、映画の筋は忘れてしまった。ただ、建国記念日(映画に出てくるのは紀元節復活反対デモだが)に雪という映像だけが印象に残って、建国記念日の雪というと、この映画を思い出す。
YouTubeに予告編があったのだが、やはり、筋はまるで覚えていない。
予告編を見ると、何だか、全共闘時代の映画っぽいなあ。70年安保前夜、67年の映画だからなあ。この映画、大島渚のATG時代の映画かと思っていたら、まだ松竹だった。寅さんやら、釣りバカやらの松竹が、こうした映画を作っていたのって時代だったんだなあ。タイトルもタイトルだけど、予告編もヨサホイ節(春歌)。かなり挑発的だなあ。
出演陣を見ると、伊丹十三、この頃はまだ一三(いちぞう)だった。ウィキペディアを検索してみたら、伊丹夫人の宮本信子も出ていた。
ナイジェル・ウォーバートン『若い読者のための哲学史』を読むーー哲学者はときに世間にとってうるさいアブか
もう全然、若くはないのだけれど、読んでしまいました。
若い読者のための哲学史 (Yale University Press Little Histor)
- 作者: ナイジェル・ウォーバートン,月沢李歌子
- 出版社/メーカー: すばる舎
- 発売日: 2018/04/26
- メディア: 単行本
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『ソクラテスの弁明』を読んで、哲学に関心をもち、その歴史を読んでみたくなった。この本はイェール大学出版局「リトル・ヒストリー」シリーズの1冊。大学生のための入門書として書かれたのかどうかはわからないが、中学・高校生でもわかりそうなぐらい読みやすく書かれた本だった。それぞれの哲学者がどのようなテーマを追って、どのような思考をしてきたかが平易な文章で書かれている。こういう入門書は欧米の得意とするところで、とっつきやすい。
この本をざっと読んでみて、さらに興味があれば、原点を読んでいくということなのだろう。内容はソクラテスから現代のピーター・シンガーまで幅広い。哲学者だけでなく、ダーウィンやフロイトのように、その後のものの考え方に影響を与えた人も紹介する。
目次で登場人物をみていくと、こんな具合。
2.真の幸福(アリストテレス)
3.わたしたちは何も知らない(ピュロン)
6.わたしたちを操るのは誰か(アウグスティヌス)
7.哲学の慰め(ボエティウス)
8.完璧な島(アンセルムス、アクィナス)
9.キツネとライオン(ニッコロ・マキャベリ)
10.下品で野蛮で短い(トマス・ホッブス)
11.これは夢なのだろうか(ルネ・デカルト)
12.賭けてみよ(ブレーズ・パスカル)
13.レンズ磨き職人(バルーフ・スピノザ)
14.王子と靴直し(ジョン・ロックトマス・リード)
15.部屋の中のゾウ(ジョージ・バークリー、ジョン・ロック)
16.すべての可能世界のうちで最善のもの?
17.想像上の時計職人(ディヴィッド・ヒューム)
18.生まれながらにして自由(ジャン=ジャック・ルソー)
19.バラ色の現実(イマヌエル・カント①)
20.「誰もがそうするなら?」(イマヌエル・カント②)
22.ミネルヴァのフクロウ(ゲオルク・W・F・ヘーゲル)
23.現実の世界(アルトゥル・ショーペンハウアー)
24.成長するための空間(ジョン・スチュアート・ミル)
25.知性なきデザイン(チャールズ・ダーウィン)
26.命がけの信仰(セーレン・キルケゴール)
27.団結する万国の労働者(カール・マルクス)
28.だから何?(C・S・パース、ウィリアム・ジェームズ)
29.神は死んだ(フリードリヒ・ニーチェ)
30.仮面をかぶった願望(ジークムント・フロイト)
31.現在のフランス国王は禿げているか(バートランド・ラッセル)
32.ブー! フレー!(アルフレッド・ジュールズ・エイヤー)
33.自由の苦悩(ジャン=ポール・サルトル、
34.言葉に惑わされる(ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン)
35.疑問を抱かなかった人(ハンナ・アーレント)
36.間違いから学ぶ(カール・ポパー、トーマス・クーン)
37.暴走列車と望まれないバイオリニスト
(フィリッパ・フット、ジュディス・ジャーヴィス・トムソン)
38.無知による公平(ジョン・ロールズ)
39.コンピューターは思考できるか
40.現代のアブ(ピーター・シンガー)
哲学史といっても、西欧哲学史。西欧ではキリスト教の普及後、世界認識に神の問題が大きかったことを改めて知る。そして、読んでいるうちに、宗教的基盤の異なる東洋哲学、イスラム哲学の歴史についても知りたくなる。このあたりは井筒俊彦の本を読むべきなのだろうか。
東洋哲学覚書 意識の形而上学―『大乗起信論』の哲学 (中公文庫)
- 作者: 井筒俊彦
- 出版社/メーカー: 中公文庫
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でも、井筒俊彦の本は難しそうだな。
ともあれ、ナイジェル・ウォーバートンの本、読みやすくて、西欧哲学の流れを知る入門書としては良かった。哲学は、静かな学問のようでいて、真実、本質について突き詰めて考えいくことは、ときとして人々の神経を逆なでし、世間をざわつかせることもある。それはソクラテスとピーター・シンガーに共通しているという。しかし、アブのようにうるさく、うっとうしい哲学者が発する設問から、物事は新たな様相を見せ、いままで気が付かなかった問題の本質を教えてくれることもある。伊丹万作いうところの「だまされる」という悪*1に陥らないためには、哲学者のように考えることも必要になる。
そういえば、最近もこんなことが...
東洋大学が、元総務大臣でグローバル・イノベーション学科教授の竹中平蔵氏(67)を批判する立て看板を21日に校内に立て、ビラを配った文学部哲学科4年の船橋秀人さん(23)に「退学」を示唆するような発言をしていたことが24日、分かった。
哲学科の学生...。ソクラテスの教え子らしく、世間をざわつかせているのかもしれない。哲学って静かな学問かと思っていたが、過去の歴史を振り返ってみると、挑戦的で、ときにイラッとさせ、そして、そのあとに深く考えるきっかけをつくってくれる学問なのだろう。
ミシェル・ルグランが死去。好きなのはやっぱり「風のささやき」かなあ
また訃報です。
headlines.yahoo.co.jp ミシェル・ルグランが死去。大好きな作曲家のひとり。BS1のワールドニュースでフランスのテレビ局もトップで伝えていた。その際、ニュースで冒頭に紹介していたのは、この映画の主題歌。
「風のささやき」をミシェル・ルグラン自身がピアノを弾きながら、歌っていた。ピアニストとしても有名なのは知っていたのが、歌もうまかった。そのピアノが独学ということは知らなかった。この曲で、ルグランはアカデミー賞をとっている。
ルグランはアカデミー賞を3回をとっており、ほかは
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この主題歌も美しかった。もうひとつは
こちらは見ていないので、曲のイメージがわかない。
でも、有名なのは、この訃報の見出しになっている、こちらの音楽か。
どの曲も美しい。カトリーヌ・ドヌーヴが可憐だった。でも、どちらかというと、好きなのは、こちらの映画の音楽かな。
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ルグランのジャズの才能、ジャズへの愛が色濃く出ている曲が多い。フランスのニュースでも、ミシェル・ルグランの曲ということで「双子姉妹の歌」を歌っている不フランス人女性の二人組がいた。
ともあれ、美しく、心に響く曲をつくる人でした。合掌。
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プラトン『ソクラテスの弁明』を読むーー真実を語り、哲学に殉じる
古典というのは読んだような顔をして読んでいないことが多いものだが、この1冊もそうだった。やっと読みました。
ソクラテスが死刑判決を受けた裁判での弁明をプラトンが記録したもの。ソクラテスの弁明は内容はわかるのだが、その当時の状況がいまひとつつかめず、納富信留氏の解説が参考になった。弁明と解説がセットになって理解できるところがある。解説を読むことによって、当時、なぜソクラテスが嫌わていたかもわかる。
弁明を読むと、ソクラテスは哲学に殉じたように見えてくる。無罪を求めて媚びることも、有罪判決後は命乞いをすることもなく、自らの哲学を主張した。ソクラテスを訴え、排斥しようとした人々は、うろたえ、許しを乞うソクラテスを見たかったのかもしれないが、反対にソクラテスは告発者たちを論破し、小バカにしたようなところさえある。
ソクラテスの言葉が真実であったとしても、この当時の大方の人々には、ウザいやつと見られていたのだろう。そんな様子も見えてくる。そもそも真実は誰にとっても心地よいものでもないし、かえって神経を逆なでしたのかもしれない。
実際、ソクラテス自身、こんな話をしている。
アテナイの皆さん、今まで述べてきたことが真実であり、皆さんにすこしも隠し立てせず、ためらうことなくお話ししています。しかしながら私は、まさにこのこと、つまり真実を話すということで憎まれているのだということを、よく知っています。そして私が憎まれているというまさにそのことが、私が真実を語っていることの証拠でもあり、そして、私への中傷とはまさにこういうもので、これが告発の原因であるということの証拠でもあるのです。
自分でわかっていながら、真実を語り続けたから、結局、死刑になってしまった。それについても、こんな発言が...
なにか行動をする時には、そんなこと(生死の危険)だけを考えるのではなく、正しいことを行うのか、それとも不正を行うのか、善い人間のなす行為か、それとも悪い人間のなすことなのか、それを考慮すべきです。
哲学者とは、知を愛し、求める人であり、智者は自分には知らないことがあるということを知っている人。人間が善く生きるとはなにか。ソクラテスの弁明は心に響くものがある。弁明と解説を読み終え、哲学というものにさらに興味を持ってしまった。
伊丹万作「戦争責任者の問題」ーー「だまされた」で済ます「悪の陳腐さ」
伊丹万作って伊丹十三の父親で、映画監督だったなあ、と思いつつ、たまたま目について読んでみたら、なかなか深いエッセイだった。
敗戦後、戦争責任を追及する声が各界であがり、映画界も例外ではなかった。映画関係の戦争責任者の追及、追放が主張されていた時代のエッセイ。伊丹は戦争責任の問題はわからないという。「多くの人が、今度の戦争でだまされてい たという。みながみな口を揃えてだまされていたという。私の知つている範囲ではおれがだましたのだといつた人間はまだ一人もいない。ここらあたりから、もうぼつぼつわからなくなつてくる」と伊丹。
みんなだまされたというけど、じゃあ、だまされたと言っている人は他の人をだましてはいなかったか。本当はみんなで夢中になって、だましたりだまされたりしていたのではないか。
このことは、戦争中の末端行政の現われ方や、新聞報道の愚劣さや、ラジオのばかばかしさや、さては、町会、隣組、警防団、婦人会といつたよう な民間の組織がいかに熱心にかつ自発的にだます側に協力していたかを思い出してみれば 直ぐにわかることである。
戦争中、街で人の服装をチェックして「非国民」と言っていたのは、あなたたちでしょうと。市民の生活を圧迫していたのは市民。戦争責任といういけど、戦時体制の締め付けに狂奔していたのが、あらゆる身近な人たちであったことは何を意味するのか、と、伊丹は問う。
そして、だまされた側の責任について語る。
だまされたということは、不正者による被害を意味するが、しかしだまされたものは正しいとは、古来いかなる辞書にも決して書いてはないのである。だまされたとさえいえば、一切の責任から解放され、無条件で正義派になれるように勘ちがいしている人は、もう一度よく顔を洗い直さなければならぬ。
「だまされた」で、すべて免罪されるのか。伊丹は追い打ちをかける。
だまされたもの必ずしも正しくないことを指摘するだけにとどまらず、私はさらに進んで、「だまさ れるということ自体がすでに一つの悪である」ことを主張したいのである。だまされるということはもちろん知識の不足からもくるが、半分は信念すなわち意志の薄弱からくるのである。我々は昔から「不明を謝す」という一つの表現を持つている。これは明らかに知能の不足を罪と認める思想にほかならほかならぬ。つまり、だまされるということもまた一つの罪であり、昔から決していばつていいこととは、さ れていないのである。
伊丹万作、怒っています。
いくらだますものがいても、だれ一人だまされるものがなかつたとしたら今度のような戦争は 成り立たなかつたにちがいないのである。
つまりだますものだけでは戦争は起らない。だますものとだまされるものとがそろわなければ戦争は起らないということになると、戦争の責任もまた(たとえ軽重の差はあるにしても)当然両方にあるものと考えるほかはないのである。
そしてだまされたものの罪は、ただ単にだまされたという事実そのものの中にあるのではなく、あんなにも造作なくだまされるほど 批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになつてしまつていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである。
痛烈です。伊丹は、日本国民は奴隷根性といわれても仕方がないという。だいたい、「外国の力なしには封建制度も鎖国制度も独力で打破することができなかった」し。「個人の基本的人権さえも自力でつかみ得なかった」じゃないかと。黒船が明治維新を、敗戦が日本国憲法をもたらした。
我々は、はからずも、いま政治的には一応解放さ れた。しかしいままで、奴隷状態を存続せしめた責任を軍や警察や官僚にのみ負担させて、彼らの跳梁を許した自分たちの罪を真剣に反省しなかつたならば、日本の国民というものは永久に救われるときはないであろう。(略)
「だまさ れていた」といつて平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。
「だまされていた」といって平気な国民は何度でもだまされる。現代への警告にも聞こえる。相変わらずだまされていませんか、と。考えてみると、「だまされた」と言って済まして考えない人は、すべては他人事であって、自分の問題として考えない。内省も、反省もない。すべては他人の責任。結果、そうした人間の集団は何度でも同じ過ちを繰り返す。
伊丹十三のお父さんって、どんな文章を書いていたのだろうか、と思って、何となく読み始めたのだが、思いの外、いまの日本にも通じる、考えさせられるエッセイだった。いまから10年、20年たって、あのときはだまされていたとか言ったりはしないのか。伊丹の言う「だまされる」という悪は、いまも日本にただよい続ける「悪の陳腐さ」かもしれない。そんな感想が残った。
S・レビツキー、D・ジブラッド『民主主義の死に方』を読むーー民主主義の自殺を防ぐために何が必要か
オバマが2018年のお気に入りの映画として是枝裕和監督の「万引き家族」をあげて話題になっていが、こちらはオバマが本の部門であげていた1冊。
独裁は革命やクーデターなど暴力だけで生まれるわけではない。時として選挙など民主主義的な手続きによって誕生した政権が独裁というモンスターに変貌することがある。レビツキーはラテンアメリカや途上国、ジブラットは19世紀から現代に至るヨーロッパの専門家。ラテンアメリカの独裁政権、ドイツのナチスやイタリアのファシズムなど、ふたりは民主主義の崩壊過程を研究してきたわけだが、気がついてみると、自分の国、アメリカもトランプという独裁気質の政治家が登場してきていた。そんなことから、この民主主義の自殺ともいえる問題をめぐる本が書かれることになった。
選挙によって選ばれた独裁政権は、ナチスやファシズムだけでなく、ベネズエラのチャベス政権など様々な国でみられる。独裁政権化した各国の状況と同時に、独裁政権の誕生を未然に防ぐことができた国々についても紹介されるところが新鮮。また、アメリカについては民主・共和の対立が激化し、寛容さを欠いていく政治状況の変遷がデータをもとに詳細に語られている。これを読むと、トランプがいまの米国の分断をもとらしたというよりも、米国の二極化した社会的な亀裂と対立がトランプを生み出したことがわかる。特に共和党の変質がイントレランス(不寛容)な政治状況を生み出すうえで大きな役割を果たした。
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