盛力健児+西岡研介+鈴木智彦+伊藤博敏+夏原武『山口組 分裂抗争の全内幕』を読む
- 作者: 盛力健児,西岡研介,鈴木智彦,伊藤博敏,夏原武
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2015/12/04
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (5件) を見る
目次で内容を見ると、こんな感じ。
第1章(西岡研介)
神戸山口組最高幹部が明かした「我々が割って出た本当の理由」
第2章(鈴木智彦)
六代目山口組直参が語った「これは分裂ではなく謀反だ」
第3章(鈴木智彦)
二つの山口組−−暗闘の全舞台裏
第4章(盛力健児/構成=西岡研介)
大義はどちらにあるのか
第5章(伊藤博敏)
弘道会10年支配の黒歴史
第6章(西岡研介)
山口組分裂と警察の野望
第7章(夏原武)
住吉会・稲川会に走った激震
第8章(常盤泰人)
芸能・興行界と山口組分裂
第9章(伊藤博敏)
田岡三代目の見た夢ーー山口組シノギの100年
第10章(鈴木智彦)
六代目山口組、神戸山口組双方に取材し、さらに関東の住吉会、稲川会をはじめ、警察や芸能界への影響、山口組のこれまでの歴史と、分裂に至った山口組のすべてがわかる構成になっている。政治記者は番記者といわれて派閥ごとに担当記者が分かれているが、この世界でも情報源との関係の濃淡はあるようで、元神戸新聞記者の西岡氏は神戸山口組サイド、ヤクザ専門誌「実話時代」出身の鈴木氏は六代目山口組サイドでレポートし、『黒幕』の著者で「現代ビジネス」の常連執筆者でもある伊藤氏が総合司会的な役回りを演じている。
全体を読むと、神戸山口組が割って出た理由は、わからないでもない。日本の多くの企業と同じで、バブル崩壊後、経営が効率主義、利益主義に走るなか、社内(組織内)は殺伐として、何のために自分たちが組織を存続させようとしているのかがわからなくなり、縮小する市場で収益管理を強化して存続を目指すよりも、ダメであっても創業の趣旨に戻って経営したほうがいいよね、と思って、反乱を起こすといったところだろうが。管理主義の人たちは、そんなことでは組織は生き残れないといい、反管理主義の人は、理想を失ってまで生き残って何が残るという。企業で起こっていることが暴力団でも起こっているようにも見える。暴力団の場合は、暴対法の関係で市場は縮小しているのだから、さらに厳しいだろう。加えて、少子・高齢化は暴力団にあっても変わらないのだなあ。それも、この分裂の一因なのかもしれない。
伊藤氏の「田岡三代目の見た夢」を読むと、山口組中興の祖ともいえる三代目、田岡組長は経営センスも抜群だったのだな、と思う。ヤクザは正業を持て、と、選んだ3つのビジネスが、土建、港湾荷役、芸能。土建は復興、港湾荷役は貿易、そして、美空ひばり、力道山を中核とした芸能は、大衆化時代を先取り、どれもが戦後、大成長を遂げる分野だったのだな。もはや暴対法によって、暴力団が正業を持てる時代ではないが、持てたとしても、日本経済停滞の影響は受けていただろうなあ。
この本を読んでいると、「ゴッドファーザー PartII」を思い出してしまった。かつては、自分たちのコミュニティを守るために生まれた組織が次第に強大化し、暴力株式会社的な性格が先鋭化し、いつしか大義を失い、コミュニティからカンパニーとなった組織は自壊していく。これは、映画の世界だけでなく、現実の世界でも起きるのだろうか。現実を突き詰めて考えたとき、あのストーリーが生まれたのだろうか。「仁義なき戦い」にも同じような物語の構造を持っている。分裂した「神戸山口組」サイドから見れば、「六代目山口組」組長は金子信雄のように見えたのだろうか。
そんな、こんな、いろいろなことを考えさせられる本でした。でも、ともあれ、よく取材してある本で、両サイドの動きが見えた。現時点では、抗争は「情報戦」だが、これが「実弾戦」になるのか。暴対法を考えると、それはないのか、それともヤクザのメンツがそれが許さないのか、両説論じられているが、これから、どうなるのだろう。1、2年したら、続編が読みたくなる本かも知れない。