ロジャー.ローウェンスタイン「最強ヘッジファンド LTCMの興亡」

最強ヘッジファンドLTCMの興亡 (日経ビジネス人文庫)

最強ヘッジファンドLTCMの興亡 (日経ビジネス人文庫)

 これは面白い。ノーベル賞学者も参加、金融工学を駆使した超先端ヘッジファンド、LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の勃興と転落を描いたドキュメンタリーなのだが、これが冒険小説以上に面白い。LTCMの救済にあたっては、巨大ファンド破綻がマーケットに与える壊滅的影響に怯えつつ、自分だけはできるだけ負担は減らしたいウォール街の一流金融機関の首脳たちが、本当に殴り合わんばかりに闘争を繰り広げる。すごいなあ。資本主義はやはり野蛮なのだ。デリバティブ金融工学武装した天才たちも、最初は快調に飛ばしながら、最後はカネに麻痺したように、ただの投機へと沈んでいく。結局、高利回りはリスクを無視した結果かと思えてしまう。いくら精緻に計算しても、財務運用では最も基本的なリスクである「流動性リスク」は除外しているのだから、もともと危うさを内包していたのだろう。ともあれ、知性、傲慢、虚勢、野心、抜け駆け、厚顔無恥などなど生臭い人間ドラマで、小説以上の面白さ。
 「天才たちの誤算−−ドキュメントLTCM破綻」との題名で単行本で出版されていたものが文庫本になったのが、これ。単行本の時は、買ってはみたものの、分厚くて、読まずじまいだったが、文庫本になったのを機に、通勤途中で読み始めたら、これが面白い、面白い。原題は「When Genius Failed」。しかし、若き天才たちは鼻持ちならない。でも、めげないところも立派。最後まで自分たちの理論のほうが正しくて、間違っているのは、現実と思っているところがある。