ベルリン映画祭で若松孝二と山田洋次に明暗

 インディペンデント映画の雄、若松孝二と大衆メジャー映画の王、山田洋次、ベルリン映画祭では明暗だったなあ。まず、山田洋次から見ると・・・

第58回ベルリン国際映画祭の授賞式が16日夜(日本時間17日未明)、ベルリン市内であり、最優秀新人作品賞に「パーク アンド ラブホテル」(熊坂出監督)が選ばれた。同賞は2006年に新設され、日本人の受賞は初めて。コンペティション部門で期待された山田洋次監督、吉永小百合さん主演の「母べえ」は受賞を逃した。最高賞「金熊賞」は、ブラジルのジョゼ・パジーリャ監督の「エリート・スクワッド」が受賞した。

 金熊賞ブラジル映画。新人賞は日本。「母べえ」を見ているわけではないので、はっきりとは言えないが、あのテーマで、山田洋次の作風と言えば、国際的な映画祭で受賞するとはとても思えない。良くも悪しくも、とてもいい古典的な職人芸を持っている映画監督という感じではないだろうか。その点、若松孝二とは対照的。若松のほうは、昨日の受賞だけではなかった。

7日から開かれている第58回ベルリン国際映画祭で、先鋭的な作品を集めたフォーラム部門に出品されていた若松孝二監督の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」が、アジア映画振興のために設けられたネットパック賞と、国際芸術映画評論連盟賞に選ばれた。

 「実録・連合赤軍」は国際芸術映画評論連盟賞も受賞した。連合赤軍を通じて、テロと人間を正面から描いたことが評価されたのだろう。1970年代の事件を描くことは、テロの時代とも言える911以降の現代を描くことであるし、あの時代の主役のひとりでもあった若松が、この映画を撮るまでに30年以上の歳月を必要としたことはわかる。一方で、「母べえ」は、ポリティカル・コレクトネスな意味合い(文部省推薦的なというか)を超えて、どのような意味から、いま、なぜ、描かなければならないのか、というところが分からない。映画について批判すること自体が批判されてしまうような設定の映画という技巧を感じてしまう。戦争、暴力、国家権力、思想の自由、市民の平和について描くとき、戦前・戦中の母というのも随分ステレオタイプで、何が正義で何が悪か、立場によって、その境界線が揺れ動く時代に、あまりにも単純すぎるという気がするし、それは、欧米の映画祭では受け入れらないだろうし、映画先進国である韓国の釜山映画祭でも、ダメだろうなあ。と言いつつ、山田洋次の「男はつらいよ」は大好きなんだけど。