柴田三千雄「フランス革命」

フランス革命 (岩波現代文庫)

フランス革命 (岩波現代文庫)

 網野善彦のように民衆、社会の視点から、さまざまな事実を検証し、フランス革命の歴史を見ていく。教会に残っている遺書から社会階層の変化を読んだり、革命後の国民公会の投票行動から議会多数派の動向を分析したり、実証的な歴史研究から、貴族VSブルジョワの対立というよりも、貴族、ブルジョワ、民衆の三者があるときは対立し、あるときは連携し、相互に影響を与えながら、状況を変異させ、フランス革命が成立していった姿を描く。貴族も、ブルジョワも、民衆も一枚岩というわけではなく、それぞれに革命、反革命のグループがあり、相互に影響を与え、その立場も変異していく。これまで何となく常識と思っていたフランス革命像に転換を迫られるところもあった。例えば、ロベスピエール極左派かと思ったら、実は中道派で、議会では少数派でありながら、革命を求める民衆運動の力をバックに、過激で革命を危険に陥れかねない左派と、革命を抑えたい右派の双方を粛清していく。で、最後は、自分たちにも粛清の矛先が向くのではないかと恐れた左右両派から反撃を受けて、抹殺されてしまう。これなど政治劇としてありそうだなあ。で、ロベスピエールについての一節。

 ロベスピエール派は民衆運動のコントロールを強化することにより、民衆運動を骨抜きにしてしまったといえます。ロベスピエールの片腕といわれた公安委員会の一人のサン=ジュストが、その手記に、「革命は凍りついた」と書いています。これは非常にシンボリックな言い方です。つまり民衆運動のエネルギーが革命独裁を生みだしたにもかかわらず、それが革命独裁によって完全にコントロールされると、民衆運動でなくなる。なぜなら、そのエネルギーはコントロールされない自律性のなかにあるからです。「革命は凍りついた」ということは、革命独裁が自分を生みだしてくれた民衆運動の熱狂的な力を、自分自身の手で圧殺したことを物語っているのです。これがロベスピエール派の没落の意味だと思います。

 なるほどなあ。政治という力学は動的なもの、勢いなんだなあ。著者は、フランス革命が生まれた条件を3つあげる。

 既存の支配体制が統合力を失ったこと
 大規模な民衆騒擾が発生したこと、
 この事態に対処する能力をもった新しい政治指導集団になりうるものが存在すること

 これは他の革命にも通じるのかもしれない。で、この本、講演をまとめたもの。そのため、論文として書き下ろされたものに比べると、流れがまったりとしている。また、著者自身、あとがきで「限られた回数しかないセミナーで、私がフランス革命の解釈や比較の方法とかの問題に時間をさきすぎている、との印象を与えているかもしれない」という通り、第I章は解釈論、学説論に終始していて、ちょっと読みづらい。で、著者は「冒頭から解釈だ方法だという議論はわずらわしいと思われる読者は、第II章、あるは第III章から読みはじめて下さっても構わない」と書いている。はい。私は第II章から読みはじめました。
【参考】
 ・ウィキペディアにみる「フランス革命
 wikipedia:フランス革命