C・S・ルイス宗教著作集『悲しみをみつめて』

悲しみをみつめて (C.S.ルイス宗教著作集)

悲しみをみつめて (C.S.ルイス宗教著作集)

 「ナルニア国物語」の著者として有名なC・S・ルイスが、愛妻を失った悲しみについて書いた本。英国人のルイスは年老いてから出会った子持ちの米国人女性と結婚するが、ガンで妻を失う。この悲恋については、アンソニー・ホプキンスがルイスを演じたリチャード・アッテンボロー監督の「永遠の愛に生きて」という映画で描かれている。妻をデブラ・ウィンガーが演じていた。静かな良い映画で印象に残っていたので、ルイス自身の本を読んでみた。深い悲しみの中で、ルイスは記す。

わたしはどうすればいいのか。なにか麻薬なしではすむまい。それにしても読書は今は充分に強い麻薬ではない。すべてを書きとめることによって、きっとわたしは、少しはその外側へ出るのだろう。

 ルイスは4冊のノートを埋めて、ようやく死を受け入れることができるようになる。作家は書くことによって癒されるのだなあ。ルイスは宗教関係の著作が多く、これも宗教関係の著作のひとつ。愛妻を失うという絶望は神の存在をも問い直すことにもなる。ルイスほどの信心深い人でも、そう簡単に宗教によって癒されるわけでもない。悲しみに正対できるまでの思考の跡をルイスは誠実に記録している。ルイス夫人のヘレンは「H」というイニシャルで記されている。