寺田寅彦『知と疑い』

 寺田寅彦のエッセイには、心に響く警句が多い。このエッセイも考えさせられる。印象に残ったところを抜書きすると...

 疑いは知の基である。よく疑う者はよく知る人である。

 なるほど。

 基礎の原理原則を探り当てる大科学者は常に最も無知な最も愚かな人でなければならぬ。学校の教科書を鵜のみにし、先人の研究をその孫引きによって知り、さらに疑うことなくしてこれを知り博学多識となるものはかくのごとき仕事はなしとげられないのである。しかれども大いに驚き大いに疑う無知愚者となるためにはまたひろく知り深く学ばねばならぬのである。

 そうだなあ。このあたり、『科学者とあたま』につながるものがある。

 読書もとよりはなはだ必要である。ただ一を読んで十を疑い百を考うる事が必要である。

 本をただ読んでいるわけではいけないということね。

 疑う人におよそ二種ある。先人の知識を追究してその末を疑うものは人知の精をきわめ微を尽くす人dである。何人も疑う所のない点を疑う人は知識界に一時機を画する人である。

 疑うことが大切なのだなあ。