「マルホランド・ドライブ」ーー面白いと思うけど、説明しろといわれると...
デヴィッド・リンチの伝説的カルト映画、遅ればせながら見ました。
確かに面白い。リンチ独特の世界に引き込まれる。何が現実で何が幻覚か、映画らしい映画といえるのかもしれない。かなりアヴァンギャルドなつくり。しかし、どんな映画か、説明しろ、といわれると、難しい。何度も見て、少しずつわかっていく映画なのかも。あるいは、もともとわかる必要はなく、体験することなのかな。この映画でブレイクしたナオミ・ワッツは体当たりの熱演。
【追記】
この映画、ナゾだったのだが、町山智浩の「映画その他ムダ話」に、デビッド・リンチ監督にも取材したという解説があった。これを聴くと、ああ、そういうことだったのね、と。ネタバレありの解説なので、一度、見てから、聴くといい。何じゃ、この映画と思っている人(私もでしたが)にオススメです。
東京五輪買収疑惑でJOC会長が記者を謁見。ブラック・タイディングス、こんな会社なのに...
どんな記者会見になるのかと思ったら、会見ではなく、謁見でした。
2020年東京五輪・パラリンピック招致を巡る不正疑惑で、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長(71)が15日、東京都内で記者会見し、改めて身の潔白を主張した。フランス司法当局が捜査中であることを理由に質疑は受け付けず、会見は7分で終わった。
JOC、以前からシンガポールの会社、ブラック・タイディングスへの支払いをコンサルタント料と説明しているが、今回の疑惑が発覚したのは、ロシアのドーピング問題から。それもドイツ公共放送ARDの調査報道で、ドーピング疑惑のカネに絡んでブラック・タイディングスの怪しい実態が暴露されたことに端を発している。ドイツの取材班はシンガポール現地に突撃取材しているが、YouTubeに、このドキュメンタリーをアップしている人がいた(いずれ削除されるかな)
https://www.youtube.com/watch?v=lpiUm26ffzo
ここでは「ドーピングの秘密」になっているが、Jスポーツなどで放送されたときは「ドーピングにまつわる秘密文書」だった。約60分の番組が6つに分けてアップされているが、ブラック・タイディングスが登場するのは、この6-5の6分ぐらいから。怪しさ満載。絵に描いたようなペーパーカンパニー。JOCがこの動画をYouTubeで見つけたら、削除依頼を出すかもなあ。まずいもんなあ。
でも、YouTubeで削除しても、この調査報道をしたHajo Seppeltのサイトに、このドキュメンタリーのアーカイブがあるんだよねえ。日本語字幕がないから、難しいけど、こちらだと46分過ぎあたりから。もう隠せないよねえ。
http://hajoseppelt.de/2014/12/doping-top-secret-how-russia-makes-its-winners/
そもそもロシアの国家ぐるみのドーピングが発覚したのは、2014年12月に放映されたこのドイツ公共放送の調査報道番組がきっかけ*1。そして、疑惑のブラック・タイディングスを調べているうちに今回の東京五輪買収疑惑が浮上した。東京オリンピック2020の決定は、2013年9月だから、この調査報道が炸裂する1年以上前。ロシアのドーピング疑惑取材からから飛び火してくるとは考えてもいなかっただろうなあ。
JOC、ブラック・タイディングスにカネを支払ったこと自体は否定せず、コンサルタント料と説明しているのだが、苦しいなあ。どのようなコンサルティングを誰からどのように受けたのか。興味あるところだけど、その資料は残っているのだろうか。電通の役割は? 記者だったら、聞きたいことはいっぱいあったと思うけど。
JOCの会長が、これだけ不利な状況で記者会見するのはなかなかの度胸だと思ったが、声明文を読み上げて、記者を謁見するだけだったとは...。日本のメディアは忖度してくれても、この疑惑を数年前から追っている英ガーディアンをはじめ、仏ル・モンドの記者など外国人記者の質問は容赦ないだろうし、どうするんだろうと思ったら、質問を受ける気など最初からなかったんだなあ、きっと。
外国人だけ締め出して記者会見するのかと思ったら、日本人も無視だったんだ。何だか疑惑を深めただけみたい。しかし、平成末期らしいといえば、平成末期っぽい記者謁見だったけど、最近はよく見る風景だなあ...。でも、日本では通用しても、今度は世界のメディアが相手だから...。
しかし、改めてドイツ公共放送の調査報道はすごかったと感心する。NHKもドキュメンタリーは良いものをつくっているんだから、報道がやらないんだったら、ドキュメンタリーの取材班がドイツ公共放送並みの取材力を発揮して、つくらないのだろうか。無理かなあ。見たいなあ。もう、そんな気概もエネルギーもNHKには残っていないか。街角で72時間取材するだけかな。
サン・テグジュペリの「ちいさな王子」を読む。おとなのための寓話だったのかも
若いときに何度も読みかけては挫折した本が、歳をとると、すっと読めてしまうことがある。個人的には、この本...
サン=テグジュペリの「Le Petit Prince(ちいさな王子)」。昔から有名な作品でファンも多い。小学校か、中学校か、高校か、何度も読もうと思った。そのときは、こっちの本。
- 作者: サン=テグジュペリ,Antoine de Saint‐Exup´ery,内藤濯
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/03/10
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内藤濯訳版の「星の王子さま」。蛇が象を飲み込んだ帽子のような絵に始まる、この本のバオバブの木あたりで、いつも挫折してしまって、ついに読み通せなかった。大学のときは、フランス語の授業で、この本を読まされることになった。
Le Petit Prince (French Edition)
- 作者: Antoine de Saint Exupéry
- 発売日: 2012/11/14
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原書の「Le Petit Prince」。しかし、こちらも雑談の多い先生だったためか、やはりバオバブのあたりで終わってしまった。だから、「星の王子さま」、Le Petit Princeというと、すぐに頭に浮かぶのは「バオバブ」だった。この本で初めて「バオバブ」という変な名前の樹木があることを知ったためかもしれない。そのインパクトのほうが強かった。
2005年に岩波書店の翻訳出版権が消え、「星の王子さま」から原題に忠実な「ちいさな王子」の翻訳新刊ラッシュになったことも知ってはいたが、特にサン=テグジュペリに思い入れがあるわけでもなく、読もうとも思わなかった。それが、この年末年始に何となく野崎歓訳の光文社古典新訳文庫版を読み始めたら、面白くて、最後まで一気に読んでしまった。この古典新訳文庫シリーズは読みやすい本が多くて好きなのだが、これも当たりだった。
訳がいいこともあるのだろうが、もうひとつ、思うのは、冒頭で、サン=テグジュペリ自身が「この本をおとなに捧げてしまったことを、こどもたちにあやまらなければならない」と書いているように、これはおとなのための寓話なのだなあ。早くおとなになりがたっている子供のころや、まだおとな経験が未熟なころには、感じるところが少なかったのかもしれない。学校の頃は、何でもわかっていると勘違いしている、ひねくれたガキだったし...。読むには早かったのだなあ。
有名な一節...
心で見なくちゃ、ものはよく見えない。大切なものは、目には見えないんだよ
いまは実感としてわかるものがある。目に見えるものに囚われて、失敗した経験も積んだから。こどものころは、ただのきれいごとにしか聞こえなかったのだろう(もっとも、このことばが出てくるところまで読んでいなかったが)。
あるいは、1日1分で自転する星で、律儀に街灯を点けたり、消したりし続けている点灯係に会った王子のことば...
あの人は、ほかのみんなに馬鹿にされるんだろうな。王様にも、うぬぼれ屋にも、のんべ えにも、ビジネスマンにも。でもぼくには、あの人だけはこっけいに思えなかった。それはきっと、あの人が自分以外のもののことを気にかけていたからなんだ
これは、おとなとなって忘れたもの、失ってしまったものを思い出させてくれる本なのだと改めて思った。だから、こどものころに読んでも、ピンとこなかったのは、訳のせいばかりとはいえない気もする。
最後にもうひとつ、今になって気がついたのだが、サン=テグジュペリのことをずっと「サン=テクジュベリ」だと思い込んでいた。「Saint-Exupéry」だから、当然、「べ」じゃなくて「ペ」だったのに...。「Le Petit Prince」という名前はフランス語の授業の成果で覚えていたのだが、著者の名前が「b」じゃなくて「p」であったことに今回、本を読むまで気が付かなかった。
「ミラーズ・クロッシング」再見。コーエン兄弟といえば、やはりこれだなあ
久しぶりに再見しました。
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コーエン兄弟の「ミラーズ・クロッシング」。コーエン兄弟に注目したのは、このスタイリッシュなハードボイルド映画を見てから。この映画で、ガブリエル・バーンのファンになった。アルバート・フィニーは渋い。コーエン映画の常連となるジョン・タトゥーロやスティーブ・ブシェミといった個性派も出ている。役者も監督も脚本も映像(撮影)も音楽もともかく好きな映画。ムードがある。
コーエン兄弟の映画は実際のところ、玉石混交というか、傑作と凡作が混在する感じがするのだが、個人的には「ファーゴ」と「ノーカントリー」と、これだなあ。ただ、コーエン兄弟、その後は、この手のちょっとレトロなハードボイルド・ギャング映画は作っていない様子。レイモンド・チャンドラーとか、ダシール・ハメットとかを原作とした映画をつくると、面白いと思うけど。
「サウンド・オブ・ハート」ーー韓国が漫画家の笑いと涙の日常を描くと...
NETFLIXで見た韓国ドラマ...
韓国のウェブ漫画家を主人公にしたコメディ。主人公の漫画家を、「トンイ」で間抜けなのっぽの楽師を演じていたイ・グァンス、そのアホな兄を「ミセン」で主人公の頼りになる先輩役だったキム・デミョン。韓国の漫画家のドラマが面白いのかどうかと最初は思っていたのだが、見始めると、このふたりを中心に役者が揃っていて、ともかく笑える。かなりバカバカしい。
笑いの感性が共通しているということは、それだけ韓国の普通の人の生活が日本と近いためなのかもしれない。サラリーマンの兄が仕事がなくても会社から帰れないのは主任が帰らないから、主任が帰れないのは課長が帰らないからで、課長が帰れないのは部長が帰らないから、といった会社の風景は日韓ともに変わらない。グローバル化が進む中での英語コンプレックスをめぐる話も同様。
一方、主人公の父親が映画のエキストラで演じた北朝鮮兵の格好のままバスに乗ったところ、北朝鮮の攻撃か、と、車内がパニックになるところなどは韓国ならではのネタか。ともあれ、バカバカしい漫画家コメディで、楽しめた。
漫画家のテレビドラマ・映画は日本では定番のひとつで、すぐに思いつくものだけでも...
どれも面白く、楽しめ、ほろっとさせるところもある。漫画家は日本でも韓国でもドラマになるのだ。「サウンド・オブ・ハート」はキャストを変えた第2シーズン(「サウンド・オブ・ハート・リブート」)が出ているようだが、こちらはまだ見ていない。「トンイ」と「ミセン」でお馴染みとなったふたりの芸達者が演じたオリジナルキャスト版のイメージが強力で、今ひとつ食指が動かない。ヒロインのチョン・ソミンも可愛かったし(コメディエンヌとしても挑戦していたし)、母親役のキム・ミギョンは韓国ドラマで見かけることが多い女優さんで、このドラマでもキャラが立っていた。このドラマ、役者もネタも揃っている。
東京五輪買収疑惑、JOC会長がフランス当局の捜査線上に? ブラック・タイディングスの名が再び
フランスの捜査当局はまだ追いかけていたのだ。
www3.nhk.or.jp NHKはじめ日本のメディアの記事では「シンガポールの会社」って簡単に報じているけど、海外メディアははっきりと名前を出している。その会社は、悪名高き「ブラック・タイディングス」。当時、実力者の国際陸連会長への賄賂の窓口とみられていたペーパーカンパニーで、ロシアのドーピング疑惑を告発したドイツの公共放送局の調査報道で初めて名前を聞いた。ドイツの取材班はこのとき、実際にシンガポールの住所まで訪ねて実体がないことを暴いている。
コンサルタント料という名目だったとしても、そんな会社に大金を振り込めば怪しいと思われても仕方がない。だいたい、この買収疑惑自体、ロシア・ドーピング疑惑のカネを追いかけているうちに出てきた話みたいだし...。
この話、これまで熱心に取材・報道していたのはFACTAぐらいだった。例えば、
2016年3月号では
2016年7月号でも
そして、2018年3月号でも
FACTA、オリンパス問題でもしつこかったけど、東京五輪買収疑惑も追っかけ続けていた。ほかはどうかと思って、改めてGoogleを検索してみたら、東洋経済も頑張っていた。
toyokeizai.net こうした報道を見てきていると、今回の報道が出てきても、「東京五輪が買われた」ということ自体に驚きはない。驚くとすれば、フランスの捜査当局がまだ諦めていなかったことだろうか。
この話、日本のメディアの大勢はフランスの報道を淡々と伝えた第一報のあと、どうカバーしていくのだろう。FACTAも東洋経済も広告依存度は低そうだけど、東京五輪で一儲けを考えているメディアは「もうフランスはぁ。来年のオリンピックに向けてみんなで盛り上げようと思っているときに空気を読まないやつだなあ。ゴーンを逮捕した仕返しか」とか思っているんだろうか。で、いつものように黙って嵐が通り過ぎるのを待つのか。
Amazonを見ていると、東京オリンピック、書籍出版の世界ではバラ色、夢いっぱいモノだけじゃなくて、こんな本も出ていた。
これも東京五輪に関連したひとつのジャンルかも。裏オリンピック物語か。
高月靖『在日異人伝』ーー力道山から町井久之まで朝鮮半島にルーツを持つ異能、異才な人たちの人生行路
こんな本を読みました。
在日コリアン列伝。「異人伝」の「異人」は、異能の人という意味。確かに芸能界、スポーツ界から経済界に至るまで、異能を発揮すると、「あの人、ザイニチじゃないの?」という噂が走ることがある。噂が真実の場合もあれば、フェイクの場合も。そして、そうした日本の風潮の中で、カミングアウトする人もいれば、沈黙する人もいる。それは人それぞれの人生観であり、それぞれの物語。
この本では、戦後史に燦然と輝く実績を残した在日コリアンたちが紹介されている。朝鮮半島出身の人と知っていた人もいれば、知らなかった人もいた。目次で見ると、この本でとりあげられているのは、こんな顔ぶれ。
序章 「噂」の背後に横たわる歴史
第1章 半島の原風景
力道山 物語を生きた男
立原正秋 年譜に刻み込んだ創作
韓昌祐 70年目を迎えた挑戦
陳昌鉉 朝鮮の山野に溶けた旋律
第2章 多国籍文化の担い手
松田優作 不条理をくるんだ訛り
鄭大世 黒板に書いた「祖国」代表の決意
第3章 戦いと蹉跌
徐勝 二つの祖国
李熙健 「民族系金融」の蹉跌と遺産
金嬉老 日本への望郷
町井久之 日本に託した夢
インタビュー
鄭義信 石垣朝鮮集落の記憶
力道山、張本勲、松田優作、ジョニー大倉は有名だが、立原正秋が朝鮮半島の流れの人だとは知らなかった。鄭大世など名前で最初からわかる人もいる。
それぞれの人生を通じて、日本の戦後史と同時に朝鮮半島の歴史を知ることができる。南北の分断、左右両派の凄惨な対立、朝鮮戦争といった半島の歴史に翻弄され、帰るに帰れなくなった人びとも多かったことを知る。勉強になります。読んでいて、深沢湖の小説『海を抱いて月に眠る』に通じるものを感じた。あちらは小説だが、こちらはリアルな物語が綴られている。印象に残る本でした。