村上春樹が選んだ、誕生日を題材にした小説のアンソロ
ジー集。
村上春樹翻訳の海外小説が12編と村上自身の書き下ろし短篇「バースデイ・ガール」が収録されている。良かったのは、
ラッセル・バンクスの「
ムーア人」、ダニエル・ライオンズの「バースデイ・ケーキ」、リンダ・セクソンの「皮膚のない皇帝」、ポール・セローの「ダイス・ゲーム」(これは「
Hotel Honolulu」からの抜粋)、
イーサン・ケイニン「慈悲の天使、怒りの天使」。
村上春樹自身の「バースデイ・ガール」も良かった。
レイモンド・カーヴァーの「風呂」は、のちに「ささやかだけれど、役にたつこと」というロング・バージョン版になった一編。カーヴァーの最初の編集者は独断で大胆に筆を入れ、削ったそうだが、カーヴァーはこれを不満に思っていて、いくつかの小説を書き直したと言われる。「風呂」もそうした小説のひとつ。最初に「ささやかだけれど」を読んだせいかもしれないが、作品としては「風呂」よりも「ささやか」のほうが数段いい。「風呂」には、カーヴァーの静謐さが欠けている。編集者の個性が勝ってしまっているのだろうか。カーヴァーと編集者の確執が先入観としてあるため、そう感じてしまうのだろうか。