マット・マーシャル「ザ・バンク」

ザ・バンク ― 初めて明かされる真実 ユーロ誕生と欧州中央銀行(ECB)の苦悩

ザ・バンク ― 初めて明かされる真実 ユーロ誕生と欧州中央銀行(ECB)の苦悩

 ギリシャの公的債務危機をきっかけにユーロ危機が深まっている折、ユーロについて、お勉強してみたいと思っていたときに出くわした本。表紙には「初めて明かされる真実 ユーロ誕生と欧州中央銀行(ECB)の苦悩」ということで、ユーロとECB誕生をめぐるインサイド・ストーリー。筆者はウォール・ストリート・ジャーナル出身のジャーナリストで、ECBなど欧州の金融界のキーパーソンに直接取材している。ユーロ誕生当時の主役たち、独ブンデスバンクのハンス・ティートマイヤー、初代ECB総裁のウィム・ドルイセルベルク(オランダ銀行総裁・オランダ蔵相)、2代目総裁となるフランスのジャン=クロード・トリシェらの生い立ちから説き起こす。
 ドイツとフランスの対立は、両国の覇権争いだけではなく、経済思想・通貨思想そのものの相違にまで遡る根深い問題であったことがわかる。二度の世界大戦敗戦後、ハイパーインフレを経験したドイツは物価の安定が最重要・最優先課題で、財政についても保守主義。「強い通貨」を志向する。これに対してフランスは官僚主導国家で、財政出動によって国家を管理しようとする。財政赤字に陥りがちで、インフレに寛容。フランスも経済が低迷し、こうした国家運営に反省が生まれ、自由化していくが、歴史的に見ると、中央銀行の文化は対照的だった。そうした違いをどう乗り越えていったかがメーンストーリーとなるが、基本的に、ドルと円に対抗する通貨を創る、あるいは、冷戦後の統一ドイツを欧州に引き止めるという政治主導で通貨統合が実現していく。
 1999年に書かれた、10年以上前の本だが、現在、表面化した財務規律などの問題は、当時から内包されていた。この時期に読むと、なかなか面白い本。