門倉貴史+賃金クライシス取材班『貧困大国ニッポン』

貧困大国ニッポン―2割の日本人が年収200万円以下 (宝島社新書 273)

貧困大国ニッポン―2割の日本人が年収200万円以下 (宝島社新書 273)

 副題に「2割の日本人が年収200万円以下」。最近、知り合いのベンチャー経営者から超リッチな社会の話を聞く機会があったのだが、聞いているうちに、社会の反対の側にいる人々のことが思い浮かんできて、手にとった本。聞き取り調査で年収300万円以下の仕事と生活が記録されている。一人ひとり、出身、現在の居住地、居住形態、世帯年収、職業、雇用形態、勤続年数、婚姻状況が付記されているところがいい。日本のレ・ミゼラブルといった感じだが、複雑な事情を抱えている人、自業自得的な人、いろいろあるが、リカバリーが難しい社会になっている感じがするし、親にある程度、余裕がないと、なかなか這い上がるのが至難の業で、階級が固定化され始めているようであるところも気になる。
 目次で内容を紹介すると...

第1章 誰も語れなかったワーキングプア
第2章 「貧困家庭」崖っぷちのサバイバル
第3章 結婚できない“名ばかり”正社員たち
第4章 犯罪から抜けられない闇職系若者
第5章 貧乏老人がたどる悲惨な末路
第6章 貧困は本当に自己責任なのか?

 新富裕層の超リッチな話も別世界ならば、貧困層の話も別世界といった感じがする。しかし、上の別世界に行くのは努力と運が必要で(実際、知り合いの経営者は人並み外れた努力をしてきたと思う)、世の中、こんな話があるんだ、という物珍しさが先行するのだが、下の別世界のほうは、ひとつ歯車が狂えば、あっという間に現実になるのではないかという怖さがある。加えて、グローバル化とIT化は、これまでのような「平等」が機能しない社会をつくっているような気もする。先日会った経営者のベンチャーもIT化で急成長した会社で、リターンもすごいが、稼ぎ出した会社の利益水準もすごい。利益率は従来の工業、商業系の会社とは比べものにならない。ただし、会社の規模が多くなったといっても、未熟練労働者を雇ったり、画一化された作業をする労働者を育てる類の会社でもない。貧困は自己責任ではないと思うが、教育がないと貧困層から抜け出すのが難しい産業構造になってきているように思える。
 貧困から脱出する難易度が増すほど、順法精神は失われ、闇の社会に呑み込まれていく人が増えていく。それは、この本の中にも出て来る。特に、テレビやネットで間近にリッチな世界が見える時代だと、自分の惨めさばかりが際立つのだろうし、近道を探すようになるのだろうなあ。先進国における貧困や格差の問題が米国や日本だけでなく、世界共通の問題になってきているのも、グローバル化とIT化による産業構造の変化によるところが大きいのかもしれないなあ。
 次から次へと出て来る、ぎりぎりの生活を読んでいて、思ったのは、これで消費税が上がると、この本に登場した人たちの生活はどうなるのだろう? 生活保護についても批判が高まっているし、逃げ場を失うのかなあ。セーフティネットと自立支援の仕組みがどうやって作っていくのか−−再チャレンジ社会というのならば、それも問われているんだけど、社会のムードは、バブル期の弱肉強食になっていくのかなあ...とか、いろいろと考えてしまう本でした。