明智憲三郎『本能寺の変 431年目の真実』−−勝者の歴史に異議あり

 本能寺の変というのは、歴史ミステリーとして興味が尽きない題材。こちらは、そのなかでも近年のベストセラー。歴史は勝者が記録したもので、真実とは別という言葉がある。そうした視点から、残れされているものの大半は勝者が自分たちの都合で書いた歴史ということを前提として徹底的に史料を読み直す。しかも、その歴史探偵の役割を果たすのが、明智光秀の子孫だというのだから、興味は倍増され、面白くないはずがない。微に入り細に入りの再点検で、少々、読み飛ばしてしまったところもあるが、ともかく刺激的だった。本能寺の変という信長暗殺劇だけでなく、秀吉の時代になってからの利休や豊臣秀次切腹などの事件の真相にも迫る。その背景に、信長から秀吉に受け継がれた唐行きをめぐる野望と対立があるなどというところは、いまNHKで放映されている「軍師 官兵衛」を彷彿とさせる。
 光秀が信長のいじめに耐え切れず謀反に走ったなどという話によりも、日本の支配と統治をめぐる政争劇というか、オーナー系急成長会社のオーナー一族と大番頭重役の対立というか、政治劇として見たほうが説得力があるし、面白い。このあたりのリアルさは、今の政治やビジネスを連想させ、現代的な視点なのかもしれない。歴史を読むということは、どこか今が反映していて、今の時代には、この本の視点はぴったり来る。