トランプ政権下、米国はジョン・ル・カレ的な世界へ。情報機関が身内を信用できない?

 ジョン・ル・カレのスパイ小説というと、東西冷戦下、英国情報部の内部、それも首脳部にソ連に内通した裏切り者がいるという世界での物語。米国の情報機関は英国の情報機関を信用せず、情報共有ができなくなっているなどというエピソードもあった。そんな小説の世界がいまは米国で現実になってきているような気配が...。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると

米情報機関の職員らは、情報漏えいなどを警戒してドナルド・トランプ大統領に機密情報を伝えてこなかった。事情に詳しい職員と元職員が明らかにした。

 選挙戦中からロシアが大統領選に介入し、トランプ側を支援をしているのではないかとの疑いを情報機関は持っていた様子。政権についてからも先日のフリン大統領補佐官の辞任劇のように政権発足前から幹部がロシア大使と接触していた事実が明るみに。ジョン・ル・カレの小説では、裏切りは情報機関内部の話だったが、今回は政権中枢から情報が漏れるかもしれないと情報機関が疑っているという話。
 トランプとプーチンの相思相愛の関係から、情報機関も機密情報など怖くてホワイトハウスに上げらないだろうとは思っていたが、実際にそうした動きが出てきているのだ。スパイとすれば、自分たちの情報源が相手に知られれば、殺されてしまうかもしれないのだから、仲間が信じられくなったら、沈黙するなあ。加えて、情報機関は信用できないという発言を繰り返すトップが相手では、情報をあげようというモチベーションも働かないだろう。
 こうなると、英国、フランスなど同盟国だって自分たちの情報を米国に流すのかどうか。情報機関同士の信頼関係も壊れてしまうかもしれない。ジョン・ル・カレの小説で書かれていた英国と米国の立場が逆転したような...。しかし、情報なくして、どのように政策を決定していくのか。トランプ政権、怖いなあ。ル・カレの小説では、敵役はソ連のスパイ・マスター、カーラだが、KGB出身のプーチンがいまや21世紀版のカーラなのだろうか。敵を無力化するという意味で、ロシアの作戦は大成功なのかも。
 ちなみに、ジョージ・スマイリーを主人公にしたジョン・ル・カレの一連のスパイ小説は「スマイリー」シリーズと言われるが、その代表作といえば...

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

 この小説を、ゲイリー・オールドマンを主人公のスマイリー役にすえ映画化したのが、 米国情報機関の人びと、この映画でも見て、ため息をついているのかなあ。組織内の疑心暗鬼は英国情報部の話だと思っていたと...。
 で、ジョン・ル・カレの小説にはモデルがあって、それが英国情報部の幹部がソ連の二重スパイだったというキム・フィルビー事件。それを追ったノンフィクションは...
キム・フィルビー - かくも親密な裏切り

キム・フィルビー - かくも親密な裏切り

 キム・フィルビーは英国上流階級の出身で、エリート中のエリートだった。トランプ政権関係者のなかにキム・フィルビーがいるのか、いないのか。組織内に疑心暗鬼が生まれるだけで、情報工作は成功だったのだろうなあ。
 今回のフリン大統領補佐官の辞任劇(解任劇?)でも、そうだったのかもしれないが、自分たちが報告した情報がホワイトハウスで適切に処理されていないと思ったときは、情報機関は新聞にリークするようになるのだろうか。ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件のときも、調査報道をリードしたワシントンポストボブ・ウッドワード記者の重要な情報源となった「ディープスロート」はFBIの副長官だった。
ディープ・スロート 大統領を葬った男

ディープ・スロート 大統領を葬った男

 この先、どうなっていくのだろう。トランプ政権、「アメリカの世紀」の終わりの始まりだったのだろうか。