政治抗争の季節になると思い出す この映画、この台詞

 民主党代表選が菅vs小沢と決まり、政治抗争の季節に入ったが、自民党時代から政治家たちの抗争を見ていると、すぐに頭に浮かんでくるのが、この映画。

仁義なき戦い [DVD]

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 そう「仁義なき戦い」。タイトルが派閥や政治グループ同士のなりふりかまわぬ闘争を思い起こさせるからとか、政治家の親分・子分関係がヤクザ社会に似ているから、なんていうことではない。テレビニュースで政治家の方々の様子を見ていると、笠原和夫が書いた傑作シナリオの名台詞がいくつか思い浮かんでしまうのだ。
 例えば、松方弘樹が演じた山守組若頭、坂井のこんな台詞。

「夜中に酒飲んどるとよ、つくづく極道がいやになっての......足洗うちゃるか思うんじゃが......朝起きて若いもんに囲まれるちょるとよ、のう、夜中のことは忘れしまうんじゃ.....」
笠原和夫シナリオ集―仁義なき戦い (1977年)

 「極道」を「政治」に置き換えると、小沢さんとか、鳩山さんとか、派閥領袖とか各グループの代表の人たちって、こんな気分かなあ、と。おふたりにしても政治の一線から身を引くようなことを言っていたのが、ここにきて一変した。自分はそう思っていても、周りがもう辞めさせてくれないし、そのうちに本人も周囲の熱に感染してしまって、ということかな、などと思ってしまう。
 金子信雄が扮した老獪な山守組長が、若手幹部たちの反乱に際してのこんな台詞もある。もう一つ、説明すると、この台詞の前に若頭の坂井に「おやじさん、言うとってあげるが、あんたは初めからわしらが担いどる神輿じゃないの。組がここまでなるのに、誰が血流しとるんや。神輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみいや、のう!」とすごまれている。そして、坂井たちが引き上げたあと、次の台詞になる。

「あれらにゃやりたいようにやらせときゃええ。若いもんには智恵いうもんがないけん、喧嘩してどっちも消耗するだけよ。その時になりゃ、わしがただの神輿じゃないいうことにがよう分かる......」
笠原和夫シナリオ集―仁義なき戦い (1977年)

 これは昔の自民党の長老たちを思わせる。今だと、この役回りは誰なんだろう。鳩山さんもこのあたりの気持ちなんだろうか。あるいは、菅さん?「神輿じゃないぞ」と。いずれにせよ民主党の1年生議員、参院自民党の若手がどれだけ動きまわっても両党の老獪な長老たちは、こんな感覚で見ているのだろうか。
 ともあれ、「仁義なき戦い」ほど、日本の組織社会の生理を的確に表現した映画はない。シナリオだけ読んでも、これは社会学の教科書のようで、一つ一つの言葉が的確。でも、『笠原和夫シナリオ集--仁義なき戦い四部作』は絶版みたいだな。残念。これ、古本でも手に入れる価値があります。

笠原和夫シナリオ集―仁義なき戦い (1977年)

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