ビル・エモット『なぜ国家は壊れるのか』
- 作者: ビル・エモット
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2012/08/09
- メディア: 単行本
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目次で内容を見ると…
プロローグ 驚くほど重なる日本とイタリア
第1章 グッドな価値観vsバッドな価値観
第2章 経済成長を阻害する多くの試練
第3章 トリノからのインスピレーション
第4章 既得権の誘惑に翻弄される企業
第5章 壁を壊して伸びるビジネス
第6章 全ヨーロッパの期待を担う改革
こんな感じ。トリノは、新たな政治のリーダーシップによってグッド・イタリアへと生まれ変わる可能性を考えさせる一つのモデルになっているという。
印象に残ったところを抜書きすると…
イタリアの可能性を知ることによって、日本の可能性についても考察できると信じる。なぜなら、イタリアと同様に、日本の今後の大きな可能性は、製造業を活性化し革新的に進歩させることだけでなく、それ以上に、革新的な知的集約サービス業を創出することにあるからだ。
知価社会時代の革新ですね。
2008年の金融危機が自己賞賛につながったのは、イタリア人が嫌悪する外国の経済モデルの脆弱性と無謀さが露見したため、イタリア経済が比較的良く見えたからだ。
日本の金融機関はリーマン・ショックの影響が軽微だった。そのとき、日本でも金融界を中心に自己賞賛の空気があった。このあたりも日本とイタリアは似ているかも。そして…
他人の不幸を喜んだり楽しむのは、許されるだろうが、問題なのは、このような考え方が、イタリア自身の欠陥や弱点への注意をそらしたことである。つまり、他国が多重債務に苦しむイタリアの仲間入りをするときに、同様な経済混乱に陥らないと思い違いをしていたのだ。(略)他人の病気は、決して自分を健康にしないのだ。
日本にも共通するなあ。
2008年ー2010年の金融危機と現今のユーロ危機は、20年前と違って、金融混乱を解決する上で明らかに困難で不利な、グローバル状況下で展開されている。だが、それは根底に横たわる事実、すなわち、20年間の怠慢と自己満足が現在直面している状況をもたらしたこと、さらに失われた20年間に、国家をより強固でダイナミックにして、弱体化するのを防ぎ得たことに何ら変わりはないのである。
何だか、いま民主党政権の3年間を嗤っている自民党のことを言っているみたいな…。
イタリア人がいま、外国人のジャーナリストに会うと、語るのは「悲観論と敗北主義」だという。このあたりも日本の風景と似ているかもしれない。
イタリアの経済史家である、ボローニャ大学のヴェラ・ザマーニ教授が語ったという言葉。
「人間の向上能力には限度はないが、それはこれを阻止する、意図的に置かれた障害がないことが前提である。しかし不幸なことに、そのような障害が存在しているのだ。それは、政治や機構を腐敗させる保守主義の力と個人の強欲であり、これらが基本的重要事項の決定を延ばし、新勢力の前に立ちはだかって、重要問題の解決を困難にさせている」
これは万国共通なのかなあ。
イタリアは終身雇用者の解雇は厳しく制限されているという。このため、臨時雇や短期雇用の非正規労働が90年代後半から2000年代初めにかけて認められるようになった。この結果、失業率は低下し、企業の労働コストもわずかながら低下したというが、その一方で…
この改定の結果、二層の労働市場が創出されるようになり、下部は若者や女性で占められた。(略)このような二層の労働市場によって、労働市場はより弾力的になったので、一部の企業は破産を免れたり、より優れた設備や皇帝に投資することができた。だが、これは国内の格差を拡大させ、高齢者を保護する障害が築かれ、世帯消費支出が減少するにつれて、若者、特に大学卒業者に大きな不満を抱かせたのである。
このあたり日本の「失われた20年」のときの労働対策と同じだなあ。そして、正社員の過剰とも思われる保護と非正規社員の過酷さという二層構造も。格差問題は前者の硬直的な雇用条件の問題でもあることはイタリアも日本も同じなのかも。で、こんな主張をしている。
正規労働者と有期契約労働者(非正規)との極端な格差をなくさなければならない一方で、正規労働者の契約も弾力的なものにする必要がある。
これについては各国が様々な取り組みがある様子。公平、安心、効率、柔軟のバランスをどう取って、持続可能な制度にするのかだなあ。
政府と国民の関係について…
(スウェーデン、フランス)両国とも、強力な国家を求める政治と文化上の国民的総意があり、財政支出と税収は、広範なサービスを提供し、税引き後収入は、貧富間の格差是正に充てなければならないと考えている。
一方イタリアでは、この一部にしか同意していないようだ。国民との〝連帯〟を信じ、政府が健康保険、教育、年金、文化遺産の管理などの公共サービスを提供し、資金援助する必要性は認めている。しかし、政府が公平かつ効率的に実施する能力については信頼しておらず、政府に疑いの眼差しを向けているのである。
このあいまいさが、高価で大型な政府を生み、その金融力を弱体化させている。それが高価なのは、先述の公共サービスと、特に南部の公共部門の雇用が政治化されたからであり、さらにそれが票を集めたり、あるいは支持者へ報いる手段として利用されたからだ。
このあたりも日本に似ているのかもしれない。
続いて余談…
私がジャーナリストとして活躍していた頃、経営者や起業家に会って、彼らが成功する可能性を知る、逆説的法則を考え出したことがある。すなわち、政治や世界の出来事に夢中になって話す人ほど、仕事上、顕著な成果を残せない。一方で自分の仕事に夢中になって話す人ほど、その内容が退屈であっても、事業を拡張して収益を上げ、市場を支配するのだ。
これは日本の企業にも当てはまるかも。経団連みたいな大企業の経営者ほど天下国家にはまりこみがちな気も…。
アントニオ・グラムシの言葉…
「私は知性のせいで悲観主義者だが、意志があるから楽観主義者だ」
面白い。
先進国と国民の関係…
多くの国が、イタリアと同じく納税者の金で、福祉、職、年金、恩典を約束して有権者を「買収」している。税収が不足しても、増税すれば選挙に勝てないので、ますます借金を重ね、その上、このような約束を一層増やすのである。
国が豊かになったことは、権利や期待をもたらした反面、政府による給付は当然だという考えを人々に植えつけた。つまり、政府は銀行のような存在であり、一般市民はお金を払い込むが、現金自動支払機のように好きなだけ引き出せると考えるようになった。その結果、財政赤字は私たちの主にとなり弱みとなってつきまとい始めた。西欧に住んでいる人たちは、収入以上の生活をしていたからである。
日本人にも耳の痛い話だなあ。そして、こんな話も…
好景気時には、極端な富の格差が、成功の代償として認められたり、宝くじが当たったかのように大目に見られていたが、一旦経済成長が停滞すると逆になり、その差が政治的に物議を醸すのだ。機会に恵まれないことは、一時的に障害に邪魔されたのではなく、むしろ永久的な罠にとらえられたかのように考える。
このあたりも、いまの社会の空気を読んでいるなあ。
イタリア社会には既得利益団体や抵抗勢力が多いという。それが経済の停滞を招いているのだが、英国でもマーガレット・サッチャーがこうした集団と戦い、英国を改革するのに10年かかったという。改革とは、それぐらいのタイムスパンで考えていけないのだという。さらに…
自由化や実力主義を重視すれば、敗北した人たちは苦痛を感じ、大声を上げて猛烈に反対するだろうが、片や勝利者は分散しているので、自分たちの権利擁護のために結束することは考えられないだろう。
そうだろうなあ。だから、改革は途中で頓挫してしまう。
かつてイタリア銀行総裁で、現在、ヨーロッパ中央銀行総裁のマリオ・ドラギ氏の言葉…
「ヴェニスやアムステルダムの強力な都市国家がなぜ衰退したか。その原因は利益団体に一旦特権を与えると、除去するのは難しく、社会が成功を収める上で必要な、創造的進化を阻害するからだ」
うーん。日本と重なり合うなあ。でも、そうだとすると、自民党が日本を取り戻すことがいいのかどうか…。この低迷から脱する解ではないような気も…。
そして選挙制度。イタリアには2大政党制は向かないとして、こんな選挙制度を提案している。
ここで提案する、代議院(下院)の同意を得るシステムには、三つの特色がある。一つ目は、公平を期し、代議士数を一定にするため、「勝者総取り方式」ではなく、直接選挙による「比例代表制」にすること。二つ目は、有権者と政治化を緊密に結びつけ、党指導者の権力を削減するため、現行の「拘束名簿式」ではなく、候補者を直接選べるようにすること。三つ目は、極端な分裂を避けるため、単独政党の得票率が5%以上あれば、議席を獲得できるようにすることである。
筆者は簡明なことが好きなので、アイルランドが採用している「比例代表単記移譲方式」を勧める。これは有権者が自分の好みに応じて選挙区の候補者をランクづけする方式であり、公平さがより期待できる。
決断も大切だけど、合意も大切で、そのために、どんな制度がいいのかを考えるのだろうなあ。そして、世界にはいろいろな制度があるし、答えは国によって異なる。
イタリアと日本を比較した本というわけではなく、原題にある通り、「良いイタリア」と「悪いイタリア」をレポートしたルポルタージュだが、確かにイタリアについて読みながら、日本を考えることになる本でした。
・Kindle版も出ている
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