NHKスペシャル「日本海軍 400時間の証言」

 NHKが8月9日から11日まで3日連続で放映していたドキュメント。戦後35年たった1980年から11年間、かつての海軍高官が集まり、太平洋戦争がなぜ起こり、どのように作戦が立てられ、実行されたのか、さらには戦後処理(戦犯裁判対策)に至るまで議論する「海軍反省会」を開く。そのテープをもとに第二次大戦と海軍についてレポートする。第1回が「開戦ーー海軍あって国家なし」、第2回が「特攻ーーやましき沈黙」、第3回が「戦犯裁判ーー第二の戦争」。
 全編を通して感じるのは、あの悲惨極まりない戦争でも、海軍は陸軍に比べて格段にイメージが良いのだが、現実は、海軍反省会でいわれていたように「陸軍は暴力犯、海軍は知能犯、責任は5分5分」ということだった。というよりも、むしろ、戦後処理の過程で、海軍は組織的に情報戦を展開し、「陸軍に引きづられた海軍」をいうイメージを創り上げた。東京裁判で、陸軍系は東条英機をはじめ死刑判決が出るが、海軍は最高で終身刑。一方で、捕虜処刑など、BC級戦犯では、中央の高官を守るために、現地部隊の指揮官、兵が犠牲になり(責任を押しつけられ)、死刑となる。
 この番組を見ていると、海軍はきわめて官僚的組織であり、日本の官僚主義の象徴のようにもみえる。特攻と言えば、大西瀧治郎中将の発案ということが定説になっているが、実際には、海軍軍令部は、その前から特攻作戦用の兵器の開発を始めている。一人ひとりの将官は善意の人のようだが、人間を爆弾の自動誘導装置の部品としかみないような特攻作戦を準備し、着実に遂行していく。潜水艦が撃沈した艦船から海に逃れた人を銃撃して殺戮した件についても、軍令部から撃滅の指令が出ている。山本七平の「空気の研究」ではないが、戦争の空気の中で、個々人は疑問に思っても、発言しない。「やましき沈黙」が支配した世界は、いまの日本の組織にも受け継がれている。その意味で、海軍を語ることは、古くて、新しい問題と言える。
 しかし、海軍のややこしさは敗戦後も、GHQとの関係を保ちつつ、海軍のイメージアップを図るという組織的な工作までやっていることだろう。勝者が敗者を裁くことが理不尽であるにしても、戦後まで、上級者を守り、下級者を犠牲にしていくという官僚組織の怖さと救いのなさがある。そして、戦後35年たって、自ら「失敗の研究」をする。しかし、それは公表を前提にしたものではない。どこまでもエリート官僚組織で、最善と最悪が混在した組織だったのだなあ。軍官僚の暴走を許す一因となったのは軍令部の存在と言うことも知らなかった。軍令部と海軍省という権力の二重構造誕生の背景に、伏見宮博恭王の存在があったことなども初めて知った。海軍というと、連合艦隊という印象が強いのだが、軍令部の絶対的権力を抜きにして、海軍の権力構造は理解できないんだなあ。戦後60年以上たっても、いろいろな話が出てくるんだなあ。
番組公式サイト
 http://www.nhk.or.jp/special/onair/090809.html